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第五話
しおりを挟むフィオネル殿下の婚約者になるよりも前から、領地の邸で薬草やハーブを趣味で育てていて、学園に入学してからも王都の邸で育てていた。
ルーズバイン家の領地は敵対している隣国と接している為、戦闘が起こるのも少なくはない。勿論、怪我人が出ることもある。
そんな時、戦うことの出来ない私が少しでも役に立てることはないかと思い、育て始めたものが趣味になっていった。
フィオネル殿下の様子から婚約を破棄されることは確実だろうと思い、その後の身の振り方を考えてはいた。
婚約破棄後、国外追放では無かった場合、仮に別の方から求婚があったとしてそれを受ける気は無かった。そう簡単にフィオネル殿下への恋慕が消えるわけではないし、まだフィオネル殿下を想っているのに他の誰かに嫁ぐなんて不誠実な事は出来ない。
また、嫁がないにしてもこのまま上位貴族である侯爵令嬢として貴族社会にいれば、どうしてもフィオネル殿下のお姿を目にしてしまう。
私ではなく、マルチナ様と寄り添うお姿をこの先ずっと見続けると思うと耐えられなかった。
だから、エオリア・ルーズバインは死んだことにしようと考えた。フィオネル殿下から離れられるように…。
幸い、ルーズバイン侯爵家は長男であるクラウスお兄様が継ぐのだから、私がいなくてもさして問題は無い。
そして国外追放だった場合、隣国は敵対国なので友好国などに行く事も考えたが、やはり家族もいる住みなれたこの国にいたい。でも、エオリアではこの国にはいられない。
それなら、別人になれば良いのだ。
そう考えた私はお父様達に相談をした。
婚約破棄されるだろう事、国外追放もあり得る事、エオリアは死んだことにしたい事、国外追放だった場合は別人として領地に留まりたいという事。
「あ…んのクソ王子めっ!!私の大事な娘に…~っ許さん!!」
「同意見です、父上!腸が煮えくり返るとは正にこの事…っ!!」
「あぁ、エオリア。そんな辛い目にあっていたなんて…気づいてあげられなくてごめんなさい」
怒りのあまり戦慄く父と兄を宥め、お母様にはぎゅっと抱きしめられた。
「エオリア、薬屋を営んでみてはどうだ?趣味が活かせると思うぞ?」
「薬屋、さん…?」
「それは良い。エオリアの気に入っている湖の辺りに開いてはどうだろう?」
「そう、ですね。あそこは薬草も多く自生していますし、水も綺麗ですね」
「邸からもそう遠くはないし、何かあればすぐに行ってあげられるわね」
「お母様…」
フィオネル殿下に嫌われてしまった事は悲しいし辛いけれど、良い家族に恵まれて私は幸せ者ね。
「エオリア、お前に渡したい物がある」
そう言ってお父様は装飾の施された小さな箱を持ってきた。
「何ですか?」
「これは我が家に代々伝わる家宝だ」
小さな箱を開くと水色の石が付いた綺麗な銀の指輪が入っていた。
「これは、身に付けた者の姿を変える『姿写しの指輪』だ」
「姿を変える?」
「そうだ。身に付けた者の望む姿に変えてくれる、初代当主から伝わる品だ」
「そんな貴重な物をいいのですか?」
「無論かまわない。大事な娘のためだからな」
「…ありがとうございます、お父様」
これで別人としてこの国にいられる。
指輪を受け取り、恐る恐る右手の中指に嵌めてみる。すると、たちまち髪の色は瑞々しい水色に、瞳の色はサファイアの様な青色へと変わっていた。
「顔は変えなくていいのかい?」
「えぇ、お兄様。髪の色と瞳の色が違えば私だとバレないと思うわ」
「お化粧も髪と瞳の色に合ったものに変えればエオリアと気づく人はいないでしょうね。あとで色々試しましょう!」
「楽しそうだなクラウディア」
「だって娘が増えたみたいなんですものっ」
「では、私は湖の辺りに薬屋を建てる手配をしましょう」
「お父様、お母様、お兄様、本当にありがとうございます」
そして、使用人も含めルーズバイン侯爵家が一丸となり出来上がったのが『湖の辺りで薬屋を営むアリア』だった。
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