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第一話

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「――ジャレッド・アドキンズ!あんた一体どういうつもり⁉︎」
「……クラリス・マクルーア、ここが何処か分かっているのかな?」

 ウィルキンズ魔法魔術学校。
 適性のある者は血統に関わらず、入学が認められている学校だ。
 クラリス・マクルーアは庶民の出ながら、入学試験で三位以内に入る程の才を持つ魔女である。
 ジャレッド・アドキンズは、三傑と呼ばれる偉大な魔法使いを始祖に持つ名門アドキンズ家の次期当主であり、このウィルキンズ魔法魔術学校の生徒会長である。

 二人は同学年であり、入学試験の上位三名の内の二名だ。
 三位以内と前述したことでわかると思うが、クラリスは三位。
 全ての生徒の頂点にいるジャレッドは首席であった。
 元来、負けず嫌いな性格のクラリスは、ジャレッドが三傑の子孫であるというそもそもが恵まれた立場であることもあって、入学時から何かとライバル視してきた。

「よーく分かってるわよ!生徒会長さん!」
「それはよかった。それで?生徒会室で仕事中の私の元に、凄い剣幕で乗り込んで来た理由を聞かせてもらえるかな?」

 ジャレッドは、執務机で書類の確認をしていた手を止めると肘をついて顔の前で組み、ニッコリと笑んで見せるが、その瞳は全く笑っていない。

「相っ変わらず胡散臭い笑顔ね!理由なんて一つしかないでしょう?あんたがうちの魔道具研究会の活動費を減らしたことよ!」

 バン!と執務机に手を振り下ろすクラリス。
 その振動で、撫でつけているジャレッドの前髪が一束ハラリと落ちる。

 ウィルキンズ魔法魔術学校には、生徒が放課後に様々な活動をする研究会がある。
 教師は顧問として後ろに控え生徒が代表を務め、魔道具研究会をはじめとした、あらゆる分野の研究会が活動している。
 あくまでも生徒が主体の活動の為、研究会に関する予算は生徒会に一任されている。

 学校にとって有益な研究会は、成果をあげている分活動費も多く割り当てられるが……。

「なるほど。しかし、その件に関しては正当な理由があっての判断だよ」

 組んでいた手を解き上体を起こすと、乱れた前髪を再び撫でつける。

「はぁ⁉︎」
「魔道具の開発、及び開発した魔道具の運用の検証。それがクラリス、君が代表を務める魔道具研究会の活動方針だよね?」
「そうよ!」
「しかし、ここ数ヶ月、君の研究会は何の成果も出していない」
「――そんなことっ!」
「あるよね?ここ数ヶ月の活動で何か一つでも有益な物は作れた?有意義な研究成果は出せた?研究資料と称して、変わった魔道具を購入しては暴発事故を起こし、研究室の壁を何度も破壊しているだけだと思うけど?――あぁ!君の研究会は、壁を破壊する研究会だったかな?」
「〰〰っ!」

 ジャレッドに正論を言われ、二の句が出ないクラリス。
 そのクラリスを横目に椅子から立ち上がると、ジャレッドは扉の方へ歩みを進める。

「せっかく来てもらって悪いが、この話は終わりだ。私も忙しいんでね」

 扉を開いたジャレッドが、どうぞ、とでも言うように無言で手を扉の外に向かい動かす。
 それを見ても渋るクラリスに、ジャレッドは一つ溜め息を吐く。

「私も行くところがあるから出てくれないかな。君が出てくれないと鍵をかけられない」
「……わかったわよ」

 不本意ながらクラリスが生徒会室を出ると、ジャレッドは鍵をかけさっさと歩き始めた。

「ちょっと!待ちなさいよ!まだ話は終わってないんだからっ」

 その後を追いながら、なんとか活動費を戻してもらおうと粘る。
 ジャレッドは悠々と歩いているにも関わらず、クラリスはせかせかと早歩きしてやっと追いつくので精一杯、というのが更に腹が立つ。

(足の長さ自慢か!っての!)

「君も大概しつこいね」
「活動費戻してもらうまで付き纏うからね!」
「となると、その間研究会の活動が出来ないわけだから、成果も出せず次の予算会議でまた減らされるね。おめでとう!」
「はぁ⁉︎こんっの……――きゃっ⁉︎」

 下りの階段に差し掛かったその時、段のフチで足がズルっと滑り、一瞬頭が真っ白になってこのまま落ちれば大怪我をするなと、他人事の様に思った。

「――っ⁉︎くっ……‼︎」

 ほんの一瞬の出来事のはずなのに何故かスローモーションのように、落ちる私を庇う様に伸ばされたジャレッドの腕と、いつもとは違い余裕の無い焦った表情の彼に、危機的状況にも関わらず珍しいものを見たなと得した気分になった。

 落下後に来る痛みに身構えたものの、予想外に遥かに少ない衝撃を感じただけで痛みは全く襲ってこなかった。
 代わりに感じたのは、仄かなムスクの香りと、地面の硬さとは違う弾力と温もりに包まれているという感触。
 落下の瞬間、ジャレッドは落ちる私を抱きしめ、自ら庇う様に背中から落ちていた。

「――ジャレッド!大丈夫っ⁉︎」
「……あぁ、君は無事か?」

 私は抱き締められていた腕の力が緩められると、身を起こしジャレッドの顔を見た。
 背中が痛むのか目を閉じたまま眉根を寄せ、起き上がる素振りを見せない。

「私は平気。ねぇ、怪我したの……――えっ?」
「そうか、良かった。どうした?」
「いや、コレ……」
「ん?」

 動けるようになったのか、まだ少し辛そうなジャレッドが頭をもたげる。

「――手が離れないんだけど……」

 何故か私の左手とジャレッドの右手が、手のひら同士でピッタリとくっついた状態で離れなくなっていた。


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