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3 聖女は私
しおりを挟む「――あれ?」
黒軍服の捜索隊の人と教会まで戻ってくると、状況が変わっていた。
教会の前に二十人くらい集まっている。
「失礼、道を開けてくれますか?」
黒軍服の人が集まっている町民に声をかけると、教会の中に入れる様になった。
「さ、行こうか」
黒軍服の人に促され後に続いて教会に入る。
「イルザ!連れてきた……よ?」
中に入ると、イルザの側には黒軍服の人とは違う、司祭様みたいな白い服を着た捜索隊の人達がいた。
「シャウマン様、聖女様が見つかりましたよ」
司祭様みたいな人の一人が黒軍服の人に話しかける。
「そのようですね。石も光っているし」
黒軍服の人が私を見て微笑む。
「今代の聖女様は先代の聖女様と同じく、美しい金の御髪と青い眼睛をお持ちです」
「見目も麗しいですね」
「庶民とは思えぬほど所作も美しい」
……ん?
「ん?」
ん?だよね?黒軍服の人も『ん?』って思わず言っちゃうよね?
黒軍服の人と目を合わせて二人して首を傾げる。
私は黒髪に紫の瞳で美人でも無い。白服の人達が言ってるの私じゃないな?あれ?
「あのー、石を光らせたのって、わた――」
「私が聖女です」
……え?
白服の人達に石を光らせたのは私だと言おうとしたら、聖女を名乗る声が被せられた。
「イルザ?」
イルザは白服の人達の後ろから黒軍服の人の前に出てきて、スカートを摘み貴族のご令嬢みたいなお辞儀をしてみせる。
「初めまして、シャウマン様。イルザと申します」
「君が石を光らせたのかい?」
「はい、その通りです」
そう言ってイルザが微笑むと、黒軍服の人が少し困ったように私に視線を向けた。
そうだよね、この人は私が石を光らせたって話を先に聞いてるから、どっちが本当の事を言ってるのか悩むよね。
私は別に聖女になりたいわけじゃないけど……。
「イルザ、こういう事では嘘ついたらダメだよ」
子供同士でとか、些細な事で嘘をつくならまだいいけど、聖女判定なんて大事な時はさすがにダメだと思う。
たとえどんなに聖女になりたかったとしても……。
石に触れたけど光らなかった時のイルザの様子を思い出す。
「嘘?」
イルザがギロリと私を睨んだ。
「嘘をついているのはニーナ、あなたでしょう?いくら聖女になりたいからといって、変な言いがかりはよしてよ。だったら少しだけ力を見せてあげる」
そう言うと、イルザは教会の前に集まっている人達の中から腕に怪我をしている人に近づき、そっと腕に触れるとたちまちその怪我を治してしまった。
「う、腕の怪我が治った!ありがとうございます聖女様!」
その様子を見ていた周りの人達が挙って歓声をあげる。
でも待って、それは……。
「癒しの力だね」
黒軍服の人が納得したように肯く。
白服の人達はさっきより、もっと興奮した様子で話している。
「イルザ、今の力って……」
「聖女の力の一部よ。聖女は怪我を治せるの。これでわかったでしょう?嘘をついて聖女になろうとしてるのはあなたの方よ。これ以上、私に纏わりつかないでちょうだい、迷惑よ」
「そんな……っ、纏わりつくなんて……」
なんて冷たい目で私を見るの?
私たち、友達じゃないの?家族じゃないの?
イルザが私に近づき、耳元で囁く。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ。前からあんたの事嫌いだったから清々したわ。永遠にさようなら、愚図なニーナ」
今まで見てきたイルザの笑顔の中で、一番綺麗な笑顔を向けられた。
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