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1 聖女捜索隊

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「ニーナ!早くこっち来なよ!」
「待ってよイルザ、人が……多くて……っ」

 この町がこんなに活気付いているのは今まで見た事がない。
 人波にのまれそうになりながら、一緒に歩いていたイルザとなんとか少し開けた場所へ避難する。

「はぁ、疲れた……」

 軽く息を吐きながら壁にもたれかかる。

「まるでお祭りね。まぁ、お祭りみたいなものよね。聖女様の捜索隊が王都から来たんだから」

 イルザがフンっと鼻を鳴らす。
 通りに集まっている人達がこぞって見ているのは、大通りを通る白い馬車。
 真っ白で金の細工が施され、王家の紋章が描かれている。その馬車を引く馬も真っ白。
 でも、馬車を先導している馬は真っ黒。乗ってる騎士っぽい人も黒い軍服で、私はこっちの黒い馬がカッコ良くて好きだな。
 みんなが歓声をあげるけど、捜索隊の御一行様は気にする素振りも無く、町の教会に向かって進んで行く。

「聖女様ねぇ」

 凄い人だっていうのは私でもわかるんだけど、雲の上の人過ぎて正直よくわからないや。


 私とイルザは友達であり家族だ。
 幼い頃に両親を失い、他に頼れる親戚もいなかった私は孤児院に預けられた。
 イルザは私が預けられる何ヶ月か前に、母親に孤児院の前に置き去りにされたらしい。
 私達は同じ孤児院で暮らしている。血の繋がりが無いから本当の家族では無いけど、そこで暮らすみんなが友達であり家族だ。だから、私達は院長を院長ママって呼んでる。

 でも、それももう少しで終わってしまう。
 私とイルザはもうすぐ17歳になるから、孤児院を出て行かなければいけない。孤児院にいられるのは17歳の成人を迎えるまでだからだ。

 だから、早く働き口を見つけなきゃなんだけど、私にやれる事なんて無いのが悩み。イルザにもいつも『ニーナは私がいないと本当にダメね』なんて言われてるしなー。

「あ、花びら」

 薄桃色の花びらが風に舞って、青空にも、白い馬車にも、黒い軍服にも合ってる。すごく綺麗だ。

 ……そうだ!イルザと一緒に花屋さんなんて良いかもしれない!
 私は花が好きだし、イルザも花が好きで美人だから、看板娘としてお客さんを集めてくれそうだ!
 さすがに最初から店舗は難しいけど、リアカーとかで始めて、資金が貯まったら店舗を借りたらいい。
 あとでイルザに聞いてみよう。

「ねぇ、ニーナ。あとで、私達も聖女判定に行きましょ!」
「えぇ?絶対違うから行かなくていいよー」

 何日か前に町に張り出されたお城からのお知らせ。
 それは、聖女様が亡くなったから、捜索隊が次の聖女様を捜しに国をまわっていて、今度この町に来るという物だった。
 聖女様が亡くなると、新しく聖女様が現れるんだって。
 んじゃなくて、ね。
 だから、聖女様が亡くなった後に生まれた子の誰かが、聖女になるというわけじゃないんだって。
 そして、聖女様かどうか調べるためには聖女判定の石という物を使うらしい。

「そんなの、やってみないとわからないじゃない!」

 イルザの目が本気だ。凄い意気込んでるなー。

「わかったよ。とりあえず、院長のお使い終わらせないと」
「そうね、早く帰りましょっ」

 食材の買い出しを頼まれていた私達は、両手いっぱいの荷物を抱えて、再び人波に飛び込んで行くのだった。

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