1 / 1
勇者と魔王
しおりを挟む「フッ、たわい無いな。勇者とはこの程度の物か?」
「くっ……!」
やっとここまで来れたというのに、魔王に一太刀も浴びせられないとは……!
私は『魔王を消す者』という預言で勇者として育てられ、信頼出来る仲間達と共に魔王討伐を目標に旅をして来た。
四天王も倒し、ようやく魔王に辿り着いたというのに、パーティーメンバー達は満身創痍。回復アイテムも使い切ってしまった。
私達に勝ち目が無い事は分かっている。
しかし、最後まで諦めるわけにはいかない。
――私は勇者なのだから……!
「――だぁぁぁぁぁぁああっっ‼︎‼︎‼︎‼︎」
最後の力を振り絞り、魔王の額に向け剣を振り下ろす。
しかし、剣は魔王には届かず、魔王の攻撃を受けた私は吹き飛ばされ、今まで共に戦ってくれた鎧と兜は魔王の攻撃を防ぐと砕けた。
「……これまでかっ」
「――え……勇者?……え?」
なんだ?魔王の様子がおかしい。
余裕の表情で玉座に踏ん反り返っていた魔王がそわそわしている。
「……どうした、魔王?」
まさか、攻撃が当たっていたのか?
いや、手応えは無かった。
「どうしたって……いや、勇者お前……女だったのか……?」
「?そうだが、何をいまさら……」
ん?魔王の顔が真っ赤になっている。
なんだ、両手で口元を覆って……新たな技でも出す気か⁉︎
攻撃に備え剣を構える。
「いやいやいやいや待って無理無理戦えない戦えないっ!」
「本当にどうした魔王?」
黒衣を纏い、艶やかな長い黒髪を持つ、一見するとイケメンと思われるこの男は『漆黒の魔王』と呼ばれ恐れられているのだが、先程から様子がおかしい。
どんな攻撃をしても涼しい顔をしていた男が、手で顔を隠しながら指の隙間からこちらを伺いつつ身悶えている。
「……き……だ」
「なんだって?」
魔王が何か呟くがよく聞こえず、思わず聞き返す。
「……す、好きだ!」
「……は?」
魔王は何を言っているんだ?
「ひ、一目惚れした!」
「からかっているのか?」
「ちちちっ違う!ほんとのほんとに一目惚れしたのだ……っ!」
今、目の前にいるのはただの挙動不審なイケメンだ。
漆黒の魔王の余裕はどこにいった?
「一目惚れと言うが、今まで何度か会ったことあるよな?」
旅の途中、魔王はちょくちょく私達の前に現れたりしていた。
「今までは兜と鎧で分からなかった!勇者だし……男だと思い込んでいたのだ!」
「なるほど」
確かに、勇者といえば男を連想しがちだ。
「でも勇者が実は女性で素顔がどストライクでってもう戦えない傷付けられない今まで怪我させてすまないさっきも吹っ飛ばしてあぁ!ほんとすまないっっ‼︎」
息もつかず捲し立てると、魔王はとうとう土下座した。
パーティーメンバー達もちょっと引いてるんだけど。
「……じゃあ、本当に私の事が好き、なのか?」
「あぁ、好きだ‼結婚しよう‼︎︎」
「け、結婚⁉︎」
「そうだ!結婚したら、何でも望みを叶えてやるぞ!」
どうやら魔王は本気のようだ。めちゃくちゃぐいぐい来る。
私の事が好きだと言うなら、この願いも聞き入れるだろうか?
「……世界征服もやめてくれるのか?」
「勿論、お前が望むなら。それに、魔王も辞めよう」
……これも世界平和の為か。
パーティーメンバー達の期待に満ちた視線も刺さってくるし。
どうせ力では敵わないのだ。
「……わかった……結婚してやる!」
かくして、預言通り見事に勇者は魔王を消し、世界に平和が訪れたのであった。
23
お気に入りに追加
13
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
婚約者を友達に略奪されましたが、私は素敵な人に出会って幸せになりました。
ほったげな
恋愛
伯爵令息のジョニーと婚約した私。しかし、友達が私の悪口をジョニーに吹き込んだ。そのため、ジョニーに婚約を破棄すると言い渡され・・・。
薬屋の一人娘、理不尽に婚約破棄されるも……
四季
恋愛
薬屋の一人娘エアリー・エメラルドは新興領地持ちの家の息子であるカイエル・トパーヅと婚約した。
しかし今、カイエルの心は、エアリーには向いておらず……。
私は学園の王子に利用されていました。
ほったげな
恋愛
学園の王子に告白し、交際することになった私。だけど、突然振られてしまう。その理由は「好きな人と付き合うことになったから」とのこと。好きな人への気持ちを断ち切るために、私は利用されていた。
完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
水鳥楓椛
恋愛
わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。
なんでそんなことが分かるかって?
それはわたくしに前世の記憶があるから。
婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?
でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。
だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。
さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです