【完】勇者と魔王

咲貴

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勇者と魔王

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「フッ、たわい無いな。勇者とはこの程度の物か?」
「くっ……!」

 やっとここまで来れたというのに、魔王に一太刀も浴びせられないとは……!

 私は『魔王を消す者』という預言で勇者として育てられ、信頼出来る仲間達と共に魔王討伐を目標に旅をして来た。

 四天王も倒し、ようやく魔王に辿り着いたというのに、パーティーメンバー達は満身創痍。回復アイテムも使い切ってしまった。
 私達に勝ち目が無い事は分かっている。
 しかし、最後まで諦めるわけにはいかない。

 ――私は勇者なのだから……!

「――だぁぁぁぁぁぁああっっ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 最後の力を振り絞り、魔王の額に向け剣を振り下ろす。
 しかし、剣は魔王には届かず、魔王の攻撃を受けた私は吹き飛ばされ、今まで共に戦ってくれた鎧と兜は魔王の攻撃を防ぐと砕けた。

「……これまでかっ」
「――え……勇者?……え?」

 なんだ?魔王の様子がおかしい。
 余裕の表情で玉座に踏ん反り返っていた魔王がそわそわしている。

「……どうした、魔王?」

 まさか、攻撃が当たっていたのか?
 いや、手応えは無かった。

「どうしたって……いや、勇者お前……女だったのか……?」
「?そうだが、何をいまさら……」

 ん?魔王の顔が真っ赤になっている。
 なんだ、両手で口元を覆って……新たな技でも出す気か⁉︎
 攻撃に備え剣を構える。

「いやいやいやいや待って無理無理戦えない戦えないっ!」
「本当にどうした魔王?」

 黒衣を纏い、艶やかな長い黒髪を持つ、一見するとイケメンと思われるこの男は『漆黒の魔王』と呼ばれ恐れられているのだが、先程から様子がおかしい。
 どんな攻撃をしても涼しい顔をしていた男が、手で顔を隠しながら指の隙間からこちらを伺いつつ身悶えている。

「……き……だ」
「なんだって?」

 魔王が何か呟くがよく聞こえず、思わず聞き返す。

「……す、好きだ!」
「……は?」

 魔王は何を言っているんだ?

「ひ、一目惚れした!」
「からかっているのか?」
「ちちちっ違う!ほんとのほんとに一目惚れしたのだ……っ!」

 今、目の前にいるのはただの挙動不審なイケメンだ。
 漆黒の魔王の余裕はどこにいった?

「一目惚れと言うが、今まで何度か会ったことあるよな?」

 旅の途中、魔王はちょくちょく私達の前に現れたりしていた。

「今までは兜と鎧で分からなかった!勇者だし……男だと思い込んでいたのだ!」
「なるほど」

 確かに、勇者といえば男を連想しがちだ。

「でも勇者が実は女性で素顔がどストライクでってもう戦えない傷付けられない今まで怪我させてすまないさっきも吹っ飛ばしてあぁ!ほんとすまないっっ‼︎」

 息もつかず捲し立てると、魔王はとうとう土下座した。
 パーティーメンバー達もちょっと引いてるんだけど。

「……じゃあ、本当に私の事が好き、なのか?」
「あぁ、好きだ‼結婚しよう‼︎︎」
「け、結婚⁉︎」
「そうだ!結婚したら、何でも望みを叶えてやるぞ!」

 どうやら魔王は本気のようだ。めちゃくちゃぐいぐい来る。
 私の事が好きだと言うなら、この願いも聞き入れるだろうか?

「……世界征服もやめてくれるのか?」
「勿論、お前が望むなら。それに、魔王も辞めよう」

 ……これも世界平和の為か。
 パーティーメンバー達の期待に満ちた視線も刺さってくるし。
 どうせ力では敵わないのだ。

「……わかった……結婚してやる!」

 かくして、預言通り見事に勇者は魔王を消し、世界に平和が訪れたのであった。

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2022.03.28 ユーザー名の登録がありません

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