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第二話
しおりを挟むまだ日中だというのに、山へ入り少し進んだだけで辺りは薄暗くなった。
木が覆い茂り、空があまり見えないせいだ。
「隣国までどれくらいかな……」
よく、山菜や木の実を集めに行くように言われていたから、山神様が現れるまでは山へ入る事は少なくなかった。
まぁ、そのついでに自分用も取っていたしね。
そのおかげで、山の中は結構詳しいはずなんだけど、山神様みたいな鳴き声の獣なんて出くわしたことはない。
山神様はどこから現れたんだろう?
しばらく進むと、ある異変に気づいた。
――動物の声が聞こえない。
鳥の囀りすら聞こえないなんておかしい。
聞こえるのは、風に揺れる木の葉がざわざわと立てている音だけ。
その時、微かに唸るような声が茂みから聞こえ、何故だか自然と声の聞こえた方へ足が向いていた。
「――っ」
茂みを掻き分けた先に居たのは、黒い獅子の様な獣だった。
様な、というのは体が人の作りに似ているからだ。それに、元のデザインが分からない程ボロボロになっているとはいえ、服を着ている。
いきなり現れた私に警戒しているのか、グルルルと低く唸ってこちらの様子を伺っているように見える。
普通なら、こんな獣を前にしたら恐ろしいと思うのだろうけど、不思議と恐怖は感じなかった。
「……あの、大丈夫?」
なんとなく、言葉が通じるんじゃないかと思い声をかけた。
よく見ると腕を怪我しているようだ。
「……」
話しかけられたからか、獣が少し目を見開く。
「怪我をしているみたいだけど、見せてくれない?」
獣は少し考える様子を見せると、傷ついた腕をこちらへゆっくり差し出した。
「ありがとう。少し触らせてね」
声をかけてから傷ついた腕に触れる。
傷はそこまで深いものではないみたいなので、小川で汲んでおいた水で洗い流し、山に生えている薬草を潰し傷口に塗って、比較的清潔な自分の服の裾を割き、包帯がわりに巻いた。
その間、獣は大人しくその様子を眺めていた。
「――はい、これでよし!」
獣は包帯で巻かれた腕を少しの間じっと見ていたが、ふいに私へ視線を向けた。
「……ありがとう」
「……喋った!」
まさか人の言葉を喋るとは思わなかったので驚いた。
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