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悪役令嬢が世を儚んだら
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しおりを挟む「医者だ!医者を呼べ!」
誰かが我に返ったのか、叫び声を上げる。
だが、誰が見てももう手遅れだとわかる状態だ。真紅のドレスを身に纏った令嬢にしては背の高い赤い髪の女が血溜まりにうつ伏せになってピクリともしない。致命傷となった首の傷からはまだどくどくと血が流れている。それでもだれもその遺体の前にいる二人に近づきたくなくて二の足を踏んでいる。
学園中に広まった婚約者を蔑ろにした挙句身分の低い礼儀作法のなってない女と浮気した第二王子の醜聞は有名だったのだ。
さすが身分を弁えずに今の国王に擦り寄った愛妾の産んだ王子だと言われいることは、本人達は知らないが。
自分達は真実の愛だと酔っているが、周りから見れば、単なる浮気でしかないのだ。
いきなり学園の外通路からの大扉が、騎士によって乱暴に開かれた。大勢の近衛騎士に囲まれているのは、この国の王太子だった。その後ろから入ってきたのはマルガリーテの父親のフンメル公爵だった。
フンメル公爵が周りを見回し、マルクとマリアが立っている場所を見つけ、目をやると真っ赤な塊が目に入った。それが自分の娘だと気がつくまでにしばらくかかった。
慌てて駆け寄ろうとしたら、何かが自分の腕にぶら下がった。
「誰だ!」
誰何すると、それは甘ったるい声で返事をした。
「お父様ぁ、マルガリーテはマルク様に婚約破棄されて、あんな風に……愛されなくて可哀想」
と口では言っているが、にやにやしている本心はその表情から隠しきれていない。
「父?何を言っているんだ。お前は誰だ。私の娘はマルガリーテだけだ」
「やだ!お父様、私はリリーよ。真実愛してる妻の娘よ」
公爵はリリーの胸元を飾っているネックレスに目を留めた。
「なぜお前が妻の形見を付けている」
そう言って、公爵は腕に縋るリリーを振り払い、ネックレスを無理矢理リリーの胸元から引きちぎった。その反動でリリーは後ろに倒れ込んだ。
「お父様何するの!それは私のだってお母様が!」
そんな言葉に耳も貸さずに、血溜まりにうつ伏せになっている娘の元に駆け寄り抱き上げた。顔は血で汚れる事なく綺麗なままだ。公爵は脈を確かめて、マルガリーテは既に事切れている事を確認した。
「王太子殿下、娘はもう……」
ーーーーーーー
お父様、久しぶりに会ったのにどうしたの!私よ。あなたの真実の愛の相手のお母様が産んだ愛娘のリリーよ。あまりに久しぶりで顔を忘れたの?
私は伯爵家の離邸で生まれ育った。母は伯爵令嬢だったが、結婚できなかった相手の子を産むためにここに押し込められた。生まれた私は祖父母の養女として貴族院に届けられている。
お母様の真実の愛の相手はフンメル公爵家の嫡子のダウリス様。ダウリス様には家の決めた王家の血を引く公爵令嬢の婚約者がいたから、引き離されてしまった。でもお前がいるから幸せとお母様はいつも言っていた。
伯爵家の祖父母のおかげで貧しい暮らしではなかったが、お母様の言う、本当ならお前は公爵令嬢で、社交界に華々しくデビューできるのに言う言葉で、本当なら私は!とお父様に会って、認めて貰いたいと強く思っていた。
ある日お母様は、本邸から来た手紙を読んで上機嫌になった。お祖父様お祖母様が立て続けに亡くなって私達は叔父様家族の邪魔者になって、待遇が悪いとお母様がずっと文句を言っていたのに。
お父様の政略結婚の相手が死んだから、私達を引き取ってくださるの!とお母様はふわふわと喜びを告げてくる。
とうとう私が公爵家の娘になれるんだと私もまだ見ぬお父様に想いを馳せた。
期待を抱いて公爵家に行ったのに、残念だったのは、お父様は大使として他国に赴いているので、一緒に住めないことと、愛されてない前妻の娘が公爵家にいた事だった。
後妻になったお母様は前妻の娘に使える召使いを次から次に首にして、自分の言いなりになるもの達を雇い入れた。前妻の娘も離邸に追いやり、彼女の母親の形見も全て取り上げた。さすが王家の血を引く前妻の形見は絢爛豪華な宝石だった。こんなに綺麗なものは赤毛に榛色の瞳で地味な顔立ちの女には似合わない。お母様に似て美しい私のものよ。
あの女には第二王子と言う婚約者がいるけれど、ずっと蔑ろにされていると評判だ。いい気味だ。お父様の妻の座を政略結婚でもぎ取った母親の罪を娘が贖えばいいんだ。
学園に入って残念な事は、私はお父様の娘として貴族院に届けられてないので、亡くなった祖父母の養女の伯爵家の娘として入学するしかなかったことだ。早く届けて欲しいが、外国を忙しく渡り歩いているお父様はなかなか帰国しない。
お母様は公爵家もお前が継げと言う。たしかに年も一緒だし私の方が美しいものね。
第二王子が学園入学後、男爵家の娘にうつつを抜かし始めた。第二王子がどのように浮気をしているか、逐次前妻の娘に知らせてやり、卒業パーティで婚約破棄をするつもりだと教えてやった。絶望に濡れた瞳をするあの女の顔を見るのは最高に気持ちが良かった。
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