乙女ゲーム関連 短編集

ぐう

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悪役令嬢が世を儚んだら

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※流血表現が多いです。
気持ちが悪くなると思いますので、お読みになる方は自己防衛をお願いします。

ーーーーーーーーー



「きゃあああぁああ」

「うぁああああ」

 甲高い悲鳴と、思わず出てしまった声がホールの中の響き渡った。

 その場で一番近くにいるマリア・ボンズ男爵令嬢とマルク第二王子殿下の二人は驚愕のあまりに言葉も出ない。
 マリアは背が低いので、飛んで来た血を頭から被った。透けて輝く金糸のようだと褒め称えられた金髪に血がこびり付き、花のようだと褒めたたえられた顔に血が頭からたらりたらりと流れていく。
 マリアが身に纏うドレスは、マルクがマルガリーテに贈る国の予算で作らせたこの場の誰よりも贅沢なものだ。そのドレスに容赦なく飛び散った血が染みていく。
 マルクの白い王族正装の上着にも飛び散った赤黒い血でまるで呪いのような模様が広がっていく。驚愕のあまり二人とも微動だに出来ずに、自分達に降りかかった血と呪いを振り払うこともできない。


 マリアはもう膝が震えて、立っていられなくなり、床にへなへなと這いつくばった。這いつくばったために目の前の血溜まりの端に座り込むことになり、贅を凝らしたドレスの繊細で美しいラッセルレースに血がじわじわ染み込んで行く。目の前のあまりに悲惨な姿にマリアの垂れ目でアーモンド型の目は恐怖に見開き、ぷっくりして艶やかなピンクの唇からは意味のない言葉しか出てこない。




ーーーーーー

 こんなつもりじゃなかった。私とマルクは真実の愛を求めていただけだったのに、なぜこんなことになるのか。
 自分に対する数々のいじめも謝ってくれれば、それでよかった。自分だって婚約者のいる男性に惹かれて恋仲になったのだから、悪いところはあると思っていたから。だから卒業パーティの衆人環視の中で婚約破棄を叩きつけるという、マルクの言葉をなんとか宥めて、卒業パーティ会場の片隅で自分に対する嫌がらかせを彼女がした事を認めさせて、婚約を解消することに同意してもらえればいいと説得したのだ。

 自分達は相思相愛で真実の愛を貫けると思った。王族だけが冠婚葬祭で使える大聖堂で皆に祝福されて、純白のウエディングドレスに身を包むのだと思っていた。大聖堂の滅多に鳴らない鐘を王都に鳴り響かせるのが夢だった。
 彼女さえ、婚約解消に頷いてさえくれれば、それでよかった。彼女を罰しようとか思っていなかった。なのになぜこんなことになるのか。彼女はなぜナイフなど手に取ったのか。

 わからない、わからない。これから私達はどうなるのだろうか?


ーーーーーー

 なぜマルガリーテは私達の目の前でこんな事をしたのだ。
 これは当て付けなのか。愛しいマリアを虐めた罪を贖ったのか。

 私、マルクとマルガリーテが婚約したのはお互い十歳の時。愛妾の子である私の後ろ盾に国王が公爵家を選んだのだ。マルガリーテはその当時母を亡くして一人娘だったから、私が公爵家に婿入りするはずだった。だからマルガリーテは王族教育はされていない。公爵家に入り婿をしないのだから、私の地位はこれから先不安定だ。でもマリアはそれでもいいと言ってくれた。私はマリアと言う真実の愛を見つけてしまった。マルガリーテに興味がなかった。だが、マリアを虐めるようになって、明確に嫌いになった。どうして私の真実の愛を邪魔するのかわからない。マルガリーテだって自分を愛していない男と結婚しないで済むのに、何故マリアをいじめるのだ。醜い嫉妬なのか。いやそうではないだろう。私達はずっと淡々とした仲だったのだ。

 デビュタントのエスコートもファーストダンスだけ。誕生日の贈り物も侍従が代筆したカードだけ。定期的なお茶会も三回に一回しか行かない。行っても遅刻してしていき、お茶を一杯飲んで会話をしないで帰る。そんな扱いをしていた私が好かれる訳はない。流石にそこまで自惚れていない。

 優しく愛らしいマリアの言うように婚約を解消することに同意してくれて、マリアに頭を下げてくれればよかったのに。命で贖えなどそこまで求めていないのに。何故こんなことまでするのか。

 わからない。わからない。これから私達はどうなるのだろうか?

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