悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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「全ては父上の意のままにか」

 フェリクスが呟く。

「アルベルト殿下が亡くなってしまうーー流石にそれは予測が付かなかったでしょうが。国王陛下は王妃と第一側妃、デングラー公爵の周りは調べておいででした。中に入って解決するのでなく、あえて放置して、潰し合えばいいとは思っておいででしたでしょう」

「ーーーーそうかーーー私も駒か」

「駒でなく、あなたありきでしょう」

「私のために犠牲者が出たと思うとーーー」

 フェリクスは俯いた。

「殿下、しっかりして下さい。将来の王として、切り捨てる事も必要です。非情になる必要も出てくるのです」

 フェリクスはオスカーにそう言われて、顔を上げた。

「先程の続きですが、アイリーンの姉達はアイリーンが救い出して、連れ出した。生きています。それなのに、第一側妃は亡くなった。おかしいでしょう?」

「確かにな」

 呟く様に返事をするフェリクスを見て、オスカーは眉を顰めた。

「ここで死んでいた侍女は下着姿でした。どういう事かわかりますか?」

「さあ?ーーーまさかーーー」

「そっちじゃありません。王妃は侍女の制服が必要だったという事です」

「どう言うことだ」

「王妃は術者に逃げられた。術者がいなければ、祭壇や血があってもどうにもならない。呪った相手は死ぬことはない」

 オスカーは言葉を止めた。フェリクスがオスカーをじっと見つめた。

「王妃は自分で片をつけたのですよ。剥ぎ取った侍女の制服を着て、密かに離宮を抜け出て、第一側妃の離宮に忍び込んだ」

「王妃だとすぐバレるのでは?」

 フェリクスが尋ねるとオスカーは首を振った。

「王妃が離宮に籠って二十年以上ですよ。外部の人間で、会えるのは女医のアイリーンだけ。顔なんてうろ覚えで、誰も覚えていません。第一側妃は学園での騒ぎを聞いて、気分が悪くなって、人払いをして寝室にいた。そこに忍び込んで、侍女として声をかけて、お守りとして枕元にある守り刀でぐっさりとやったのだと思います」

「第一側妃は首を斬ったと聞いた。首は血が多く出る。王妃は返り血をあびて、外に出れば怪しまれるだろう」

「ですから、二人分の侍女の制服がいるのですよ」

 オスカーそう言うと、フェリクスは頷いた。

「ああ、着替えたのだな」

「そうだと思います。後は急いで自分の離宮に戻るだけ。自分の離宮は元々血の臭いが充満してますから、血の臭いが身体からしても怪しまれない。この部屋に血がついた侍女の制服が放置されてました。そして、アイリーンから仮死の薬として渡された薬を遺書を書いてから飲んだ」

「遺書にはなんと」

「国王陛下へのラブレターでした。読みたいですか?」

 フェリクスがため息をついた。

「いや、いい。遺体は母国に戻せと書いてあったのだな?」

「ーー最初で最後のお願いです。母国の土に還りたいーーー断れない様に国王陛下の罪悪感を掻き立て、哀れを催す様な文章でした」

「仮死から覚めた時どうやって逃げるつもりだった?」

「王妃はボートンとアイリーンを母国から使わされた自分の召使いだと思っていた様です。だからボートン達に救い出す様に命令していました」

「アイリーンは姉達を救い出すと、私からの謝礼を持って姿を消した。王妃を救うことはないな。ボートンはマークス副団長に後を追わせている。無駄かもしれないけれどな」

「そうでしょうね。ボートンも姿をくらましたと思った方がいいでしょう」

 二人は目を見合わせて、頷きあった。
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