60 / 65
53
しおりを挟む「そうですね。先代の国王陛下は側妃、愛妾がわんさかいて、寵愛を求めて争いが絶えませんでしたからね。そのため王妃所生の国王陛下とご弟妹は身を寄せ合って、毒殺や暗殺の危険から逃げていらっしゃった」
「後宮での争いだから、後宮を治める先代王妃が仲裁に入ればよかったのでは?」
オスカーはそんなことを言うフェリクスを鼻で笑った。
「おい、オスカー、酷くないか、一応主君なんだが……」
「相変わらず、女心に疎いですね。まあ、単なる寵愛ではなく、寵愛を受けたものが権力を持つと言うことが問題です。先代の国王陛下は先代の王妃陛下にしかお子を授けなかった。それだけは評価できますね。それ以外では、反王家派をのさばらせた罪が重い」
オスカーがきっぱり言うと、その通りなので、祖父母とはいえ庇えないなとフェリクスは思った。そんなことを考えていたら、オスカーが話題を変えた。
「それから、『呪』の件ですが、ここで死んでいた侍女は、離宮付きになってから、行方不明になった者でした」
「アイリーンの姉達ではないのだな」
「はい、違います。侍女達の死因は失血死でした」
「『呪』には血が必要なんだな?」
「その様です。やり方を記した書はないので、推察ですが。『呪』は望みが叶った時に、呪った術者にかえる。術者も死にたくないから、死がかかわる事には余程のことがない限りおこなわない。なのに王妃は自分の欲望で、人の死を願った。自分は死なないからですね」
「それもなかなかすごい」
「他人事の様な事を言ってますが、この中に書かれているには、アルベルト殿下が王太子に即位するという第一側妃が立てた噂を信じて、第一側妃とアルベルト殿下を殺す事にしたとありますよ。術者もちょうど二人いるからと。全て愛しい第一王子のためにと」
オスカーが積み上げた書物の一番上の本のページをぱらぱらとめくった。
「ここですね」
顔色の変わったフェリクスはその本をじっと見た。
「読めない。でも私を実子と信じ続けていたのか」
「はい、その様です。王妃所生の王子を王太子に立てず、寵愛している第一側妃所生の王子を王太子にするとはと、かなり激昂されています」
「間違いだらけの情報だな」
フェリクスが呻く。
「それでも、王妃にとってそれが真実です」
「それで、『呪』の的が第一側妃とアルベルトになったわけか」
「そうです」
フェリクスは訳の分からない罪悪感で一杯になって、言葉が出なかった。それを見たオスカーが言った。
「殿下、殿下のせいではありません。この状況を放置して、一斉に片付けようとした国王陛下のせいです」
「ーーーおいーーそんな不敬なことを言ってもいいのか?ーーー」
「誰も聞いていません。国王陛下から聞いていると思いますが、この騒動の始末をつけたら立太子です。そしたらすぐ譲位されるおつもりです。あなたの治世に備えて膿を出し切ろうとされたわけです」
立て続けに、捲し立てられて、フェリクスは心算はあったが、実際それが近くに来る事に身がすくむ思いだった。
114
お気に入りに追加
6,190
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?
柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。
理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。
「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。
だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。
ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。
マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。
そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。
「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。
──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。
その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。
けれど、それには思いも寄らない理由があって……?
信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。
※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
この国の王族に嫁ぐのは断固拒否します
鍋
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢?
そんなの分からないけど、こんな性事情は受け入れられません。
ヒロインに王子様は譲ります。
私は好きな人を見つけます。
一章 17話完結 毎日12時に更新します。
二章 7話完結 毎日12時に更新します。
私は何もしていない!〜勝手に悪者扱いしないでください〜
四季
恋愛
「この方が私のことをいつも虐めてくるのです!」
晩餐会の最中、アリア・フルーレはリリーナから突然そんなことを言われる。
だがそれは、アリアの婚約者である王子を奪うための作戦であった。
結果的に婚約破棄されることとなってしまったアリア。しかし、王子とリリーナがこっそり関係を持っていることを知っていたので、婚約破棄自体にはそれほど驚かなかった……。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】
仲村 嘉高
恋愛
魔法と剣の世界に転生した私。
「嘘、私、王子の婚約者?」
しかも何かゲームの世界???
私の『宝物』と同じ世界???
平民のヒロインに甘い事を囁いて、公爵令嬢との婚約を破棄する王子?
なにその非常識な設定の世界。ゲームじゃないのよ?
それが認められる国、大丈夫なの?
この王子様、何を言っても聞く耳持ちゃしません。
こんなクソ王子、ざまぁして良いですよね?
性格も、口も、決して良いとは言えない社会人女性が乙女ゲームの世界に転生した。
乙女ゲーム?なにそれ美味しいの?そんな人が……
ご都合主義です。
転生もの、初挑戦した作品です。
温かい目で見守っていただければ幸いです。
本編97話・乙女ゲーム部15話
※R15は、ざまぁの為の保険です。
※他サイトでも公開してます。
※なろうに移行した作品ですが、R18指定され、非公開措置とされました(笑)
それに伴い、作品を引き下げる事にしたので、こちらに移行します。
昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。
※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる