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しおりを挟むフェリクスがそう尋ねると、オスカーは周りを見回しエリックに声をかけた。
「エリック、すまないが周りに人を置きたくない。君が入り口にいて、だれも近づけないでくれ」
エリックは頷き、小走りで配下を連れて部屋の外に出て行った。
フェリクスは黙ってそれを見ていたが、内心は内装が剥がされ、寒々しく血の臭いが漂う部屋にあまり長居はしたくなかった。
ふと見ると、オスカーが部屋の隅で、手招きしている。オスカーのそばまで歩み寄ると、オスカーが部屋の隅にある目立たないように壁に埋め込まれた取っ手をぐいっと引っ張ると、壁の中に埋め込まれた横開きの扉が姿を現した。オスカーが横開きの扉を横に滑らすと、その向こうには豪奢な小部屋があった。
「ここは?」
フェリクスは今までいた部屋とガラリと変わった雰囲気に戸惑った。
「ここは王妃の秘密の部屋のようです」
「秘密?離宮は全て王妃が勝手に使っている。秘密にする必要があるのか」
フェリクスがそう言うと、オスカーは肩をすくめた。
「わかりませんが、王妃が毒で倒れていた部屋は他にあり、そこが王妃の部屋となっているようでした。死んでいた侍女を運び出した後に、壁の色が違う場所を見つけて、気になって触ってみて取っ手を発見したのです。まあ、入ってみて下さい」
オスカーに従って、フェリクスもその部屋に入ると、オスカーが扉を閉めた。扉を閉めるとその扉の中側に大きな肖像画があった。
「これはーーー父上か?」
「いいえ、フェリクス殿下、あなたです」
あまりにびっくりして、オスカーをまじまじと見つめてしまった。
「ーーーー嘘だろ。私と王妃は一面識すらないーー」
「でも、その肖像画の下にあなたの名前があります。それにこちらをみて下さい」
オスカーが部屋の隅から、三枚の肖像画を引っ張り出してきた。
「フェリクス殿下、あなたの成長過程です」
そこには幼いフェリクス、少年のフェリクス、青年に至るフェリクスの肖像画があった。
「なぜ?私?」
フェリクスには理解ができなかった。オスカーはそのフェリクスを見て、仕方ないですねと言うような表情をした。そして、出してきた三枚の肖像画を元に戻しながら、話を続けた。
「王妃は国王陛下の肖像画に惚れた。異母姉を陥れてまで嫁いできたのに、第一側妃に嘘を吹き込まれ、第一側妃が国王陛下の愛する人だと誤解した。その上その第一側妃が産んだ第二王子が、王太子になりそうなのを憎んで『呪』を行ったと言う結論になっていますよね?ーーーーーですが、表面的にはそうでも、国王陛下と実質的に夫婦になって、子供を三人産んでいるのは、あなたの母上の第二側妃だ。本当なら王妃が恨んで『呪』の対象にするのは、あなた方親子ではないかと思われませんでしたか?」
二人の間に沈黙が落ちた。のろのろとフェリクスが口を開いた。
「たしかに、その疑問は持った。私の母は不自然な立場ではあるが、王妃が放棄した王妃の公務をこなし、父上とも仲睦まじい。ーーーと言うか、初めて自分で望んだ女性が母上だったらしいーーー」
「そうです。一番妬まれるはずのあなた方に『呪』が向かなかった理由がこれです」
そう言って、オスカーはフェリクスが王家の正装をした姿を描いた肖像画を指さした。
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