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しおりを挟む「殿下、話を通してきました。近衛第二騎士団副団長のマルコ・シュタイナーが案内するとのことです」
エリックが駆け足で戻ってきて報告し、後ろから付いてきた男を紹介した。紹介されたマルコはフェリクスに向かって敬礼をした。
「近衛第二騎士団副団長マルコ・シュタイナーです」
「君はシュタイナー侯爵のところのーー」
フェリクスが言いかけるとオスカーが後ろから声をかけた。
「次男ですね」
そのまま導かれて離宮の中に入っていくと、生臭い匂いが漂っていた。
「これはーーー血の匂いかーーー」
「左様です。国王陛下のお許しを得て、我らが離宮に踏み込んだ時はもっと血の匂いが充満していました」
マルコが眉を顰めて、フェリクスに答えた。マルコの先導で離宮の奥へと進んでいく。王妃の住む離宮の割に手入れが行き届いてない。廊下に敷き詰められた厚い絨毯に染みができ、飾りのある天井には蜘蛛の巣がぶらーんと垂れ下がっている。
「使用人が少ないのです」
フェリクスが疑問に思ったことを察したのだろう。オスカーが答えた。
「なぜだ?」
「王妃の離宮に配属された侍女の行方不明事件覚えていらっしゃいますか」
フェリクスはオスカーに振り返り、足を止めた。
「お前が一番最初に持ち込んで来た件だ」
オスカーは足を止めたフェリクスの背を押して、先に進ませた。
「そうです。その後下働きも数人行方不明になっています。証拠はないけれど、あそこの離宮に行くと危ないと、使用人の中で有名になりまして、配属されると退職してしまうので、ずっと補充もできませんでした」
フェリクスはゾッとした。その行方不明になった女性の行く末が、どうなったか想像できたからだ。
「殿下、こちらが侍女が倒れていた部屋です」
マルコに言われて、部屋の中に進むと、内装が全て剥がされ、寒々しいむき出しの部屋であった。その上、入口で嗅いだ臭いよりもっと濃厚な血の臭いがした。
「四隅に器があり、その中に固まった血が入っていました。真ん中の祭壇のようなところには、侍女の制服を着た女性が二人、血まみれで倒れておりました」
フェリクスが目をやったそこには、祭壇らしきものは残されていたが、血まみれの女性はすでに居なかった。
「シュタイナー副団長、殿下には私が説明する。外の警備を手厚くしてきてくれ」
マルコはオスカーにそう言われたが、不服そうにフェリクスを見た。
「シュタイナー副団長、オスカーの指示に従ってくれ」
フェリクスにまでそう言われて、マルコは渋々下がって行った。
「あれを下げた理由は、シュタイナー侯爵家がデングラー公爵の一派だからか」
フェリクスはマルコの立ち去る足音が、遠ざかるのを確認してから、オスカーに尋ねた。
「そうです。彼の家は反王家派ですから、旗色が悪いことを嗅ぎ取って、殿下達が何をするか探りに来てるのですよ」
フェリクスはオスカーに向き合った。
「今更ではないか?デングラー公爵は失脚する。残った配下は許されないだろう」
「ですから、寝返るつもりで、何か土産を息子に探させているのでしょう」
フェリクスはふっとため息をついた。
「反王家派の息子がよく近衛に入れたな」
「デングラー公爵のゴリ押しだと聞いています。ですから副団長になっても、実権はほぼない」
フェリクスはそんな話ばかりだなと思い、話題を変えた。
「オスカー、ここで死んでいた侍女は、アイリーンの姉達か?さっき父上から、アイリーンは姉達を連れて出国すると聞いたのだが」
「違います。行方不明になっていた侍女達です」
フェリクスは片眉を上げた。
「だったら、おかしくないか?『呪』は術者に跳ね返る。アイリーンの姉達が生きているなら、なぜ第一側妃が死んだ」
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