51 / 65
45
しおりを挟む「それにしても、ボートンはなぜアルベルト殿下を仮死状態にしたのでしょうか」
アランが眩しい西日を避けて、座る場所をフェリクスの側に移った。
「お前、あいつらにまた男色とか言われるから、近づくな」
「女っ気ないのは、お互い様です」
「うるさい。そう言えば、この前、私の執務室にジーベル侯爵が来た」
「父が?何をしに?」
アランは何を言われるだろうと、フェリクスの横顔を見つめた。
「お前が私の相手が決まるまで、婚約者を持たないとごねるので、私に見合いをするように説得してくれとさ」
まずいことになったと言うように、顔を背けて窓の外を見るアラン。
「お前、私を引き合いにして逃げていたんだな」
フェリクスの低くなった声に、そそくさとまた対面の椅子に戻るアラン。
「殿下、そんなことより先程の話どう思われますか」
フェリクスはアランをじろりと、睨んで言った。
「第一側妃はアルベルトを王太子にするために、色々と王宮内で貴族に画策していた。母親が勝手にしたことで関係ないは通用しない。アルベルトは無罪放免と言うわけには行かない。その上学園で騒ぎを起こした。父上がどう処分するかわからないが、生きているより、死んだことにして新しく歩んだ方がいいと思ったのだろう」
「ですから!ボートンはなぜアルベルト殿下にそんなに気持ちを寄せたかです。ボートンが母国から受けた使命は、王妃の処分でしょう。アイリーンが王妃を毒殺したら、後のことまで関係ないのでは?」
アランが強く言うと、フェリクスはこいつ誤魔化す気かと言うように見た。
「ボートンはデングラー公爵家の犬の元締めでもある。デングラー公爵としては反王家派ではあるけれど、王家に歯向かった証拠の第一側妃とアルベルトを生かしておきたくないのだろう。アルベルトが薬物中毒から抜け出して、余計な証言もしてほしく無かったーーーと言ったところか。まあ、仮死にすれば、甘い私が生かして逃すとも思ったのだろう」
そう言って、背もたれに背を預け、眩しい西日を避けるために、手をかざした。
それを見たアランは何も言うことができずに、豪華な馬車の中は沈黙が支配した。その時、ごとんと馬車が止まり、エリックが声をかけてきた。
「殿下、着きました。車寄せまで、ジョエルと陛下の侍従が来ています」
馬車の扉を開け、アランとフェリクスは外に飛び降りた。
「フェリクス殿下、国王陛下がお呼びです」
国王の侍従が近寄ってきて、そう言った。
「わかった。すぐ向かう」
侍従に返事をして、ジョエルに向かって言った。
「ジョエル、アランに全て指示してある。後は頼んだ。父上との話が済んだら、王妃の離宮に向かう。それとーーーー」
フェリクスはマークスを手招きして耳打ちした。
「了解いたしました」
そう言ってマークスは乗ってきた馬の手綱を馬廻に渡し、部下数名を連れて立ち去った。それを見送って、『陛下は私室の居間においでです』と言う侍従に付いて王宮の中を進んでいった。
「フェリクス殿下のおなりです」
侍従が扉前の衛兵にそう告げると、中から他の侍従が扉を開けた。中には天鵞絨張りのソファに深く腰掛け、足を組んだ国王がいた。
「人払をせよ」
国王の一声で侍従と近衛騎士が退室していく。その後ろ姿をフェリクスは見送った。
105
お気に入りに追加
6,193
あなたにおすすめの小説
婚約破棄にも寝過ごした
シアノ
恋愛
悪役令嬢なんて面倒くさい。
とにかくひたすら寝ていたい。
三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。
そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。
それって──最高じゃない?
ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい!
10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。
これで完結となります。ありがとうございました!
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる