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「殿下、王宮に戻りますか」
ジョエルが性急に言葉を紡ぐ。
「いや、今私が戻ってもすることはないだろう。証拠品は押収したのだな?」
「はい。王妃の離宮の一番上の階の一室が呪う部屋にされてました。その部屋は四方に呪いの札が貼られて四隅に凝固した大量の血の入ったグラスが置いてありました。真ん中に祭壇らしきものがあり、第一側妃のものと思われる髪飾り、第二王子の名が入った子供用の剣がそれぞれの名前が赤で書かれたものが真っ黒に焦げていました。そしてその奥に侍女が折り重なって血だらけで死んでいました」
「その侍女は母国から連れてきた侍女か?」
「はい。ヒルシュフェルト国から連れて来た『呪』の巫女の正統な血筋の生き残りの姉妹だと思われる女達でした」
「呪い返しは巫女達に返ったわけか。王妃が人事不省に陥った原因は?」
「毒物だと思われます」
「入手経路はわかっているのか」
「婚姻のために入国した時の荷物は調べられているのでヒルシュフェルト国から持ち込んだ線は薄いです。数日前アイリーン・ボートン医師が王妃に指名で呼ばれています。医務室の薬が持ち出されていないかチェック中です」
意外な名前が出てきてびっくりした様にフェリクスがジョエルに尋ねた。
「アイリーンはボートン医官総長の娘だな?」
「養女です」
ジョエルがサラリと答えた。
「実の親はわかっているのか?」
「そこまではまだ調べられていません。ですが、アイリーンは日常的に女医だからと言う理由で王妃の離宮に出入りをしています。毒薬を手に入れやすい立場のアイリーンが持ち込んだのは間違い無いかと」
「そんなに簡単に入手経路がわかるのは返って怪しくないか」
フェリクスがそう疑うとジョエルは肩をすくめた。
「王妃は隠すつもりはもうなかった様です。アイリーンを呼ぶのも侍女が医務室に正式に依頼に行かせてます。そうすると誰がいつ誰を呼んだか記録に残ります。もちろんそれを知っていてあえて正式に呼んでます。影からそっとと呼ぶことも可能でしょうに。そこから隠すつもりもない。もう決着をつけるつもりだったのだろうと察したわけです」
「第一側妃はここ二~三年寝込みがちだったな」
「そうです。ですが具合が悪くなり、回復しての繰り返しで生死に関わる様な病気だとは診断されていませんでした」
「それは本当に『呪』のせいだったのか?」
「それはわかりません。先程アランからの報告にあったデングラー公爵の元婚約者が巫女の血筋だった話ですがこれは怪しいのではないかと。隣国の王妃陛下に手伝っていただいて調べたのには正統な血筋の生き残りは王妃の侍女の姉妹だけだったはずです。『呪』は代償がいる。最悪自分が死に至る。余程でないと出来ないことです。血筋がものを言うはずです」
「だったらデングラー公爵の元婚約者は傍系とか自称とかか」
フェリクスがそう言うとジョエルは頷いた。
「ですからデングラー公爵の受けた『呪』は発動していない可能性が大ですよ。自分の娘に冷たい理由を作りたいだけだったのではないでしょうか?」
「私もデングラー公爵は信用出来ないと思いますね」
アランも同意だと言う様に口を挟んだ。
「だいたいこの事件の始まりは、王妃の離宮に配属になった侍女が行方不明になることが続くとオスカーから持ち込まれた事が始まりだ。王妃の周辺を探ると離宮に逼塞してから公務を放棄して、閉じ籠り何をしているかわからないから探るのは本当に難儀でした」
フェリクスも苦笑いをした。
「オスカーが持ち込む話は面倒なことばかりだ。行方不明事件を探っていたら王妃の離宮の裏庭で犬が何か掘り返していたんだ。それを取り上げたら真っ黒に焦げたブローチだった。どう言う意味があるか調べたがわからない。王宮の王族だけ閲覧できる図書に『呪』の詳細があり呪う本人の持ち物に赤で名を書き真っ黒に焦がす儀式がありそれには若い乙女の血がいるとわかった。叔母上に頼んで隣国の影を借りてヒルシュフェルトの『呪』を探った時は半信半疑だったな。呪いとか今時あるのかと」
当時を思い出してアランとジョエルと笑い合った。
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