悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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「少し休憩するか。残りの尋問は犯人の男爵令嬢だけだし」

 フェリクスがそう言って座るとアランは書き上げた手紙を二通、外にいる近衛騎士に渡しに出て行った。教室の中はフェリクスとエリックのみ。エリックは近くに座って言葉を発した。

「殿下、私は聞いていただけなので理解し難いこともいくつかありました。質問していいですか」

「構わない。言ってみろ」

 フェリクスはふっとため息を付いた。

「まず、殿下は視察の日を今日に決められました。普段なら殿下は視察の日程は先方や近衛の都合に合わせても良いと言って下さいます。が今回はこの日と決められました。しかも三日前に急に。私の知る殿下はそのような事をしない方です。そして来てみればこんな事件が起きた。偶然じゃないですよね」

 エリックのぐいぐい来る話にフェリクスは苦笑いをした。

「おや、やけにいいように取ってくれてたな」

「殿下、答えて下さい」

「もちろん偶然じゃない。今日来て欲しいと指示してきた人間がいる」

「それは誰ですか」

「悪いがまだあかせない」

 エリックは少し考えたようだが質問を変えることにした。

「では、殿下、殿下はなぜこの事件を解決しようとされているのですか」

「後始末を頼まれた事もあるが、この事件の根幹は王家の問題でもある。エリック、なぜ王太子が決まってないと思う?」

「それは我々のような者にはわかりません」

「本来なら王妃所生の王子が正統な後継だ。嫁いで三年子が出来なければ、側妃を娶る。また出来なければまた娶ると言うのが我が国の王家の決まりだ。側妃を娶りたくないと言って退位した王も過去にいた。そんな王もいたがそれは特別な例だ。今の国王になってひとりの女性の横恋慕で無茶苦茶になった」

「第一側妃の事ですか?」

「そうだ。またそれをごり押しをしたのがデングラー公爵を旗頭とする反王家派だ」

「先程言ってらした王妃との不仲狙いですか?」

「そうだ。嫁いで来る前からいる側妃は愛してないなどと言う国王の言葉を信じなかった王妃も頑なだと思うが嫁いできた時は王妃は16才だった。批判するのは酷いかもしれない。そして国王と王妃は不仲になり王妃のたっての願いで離宮に別居し3年経っても子が出来ないからーー当たり前だがーーー私の母を側妃にあげた。当時デングラー公爵から抗議が入ったけれども、公爵は代替わりをしたばかりで勢力は弱まっていたし、第一側妃は5年間王宮に上がってから一度も身篭ってないので却下された」

「私の覚えでは殿下はすぐ生まれていますね」

「そう私の母は私を産んで妹達も続けて産んでいる。第一側妃とデングラー公爵家の焦りは察して余りある」

「ちょっと待って下さい。反王家派はなにがしたかったのですか?」

 フェリクスは椅子の背に背中をもたてかけさせてふぅーと息を吐いた。

「先代公爵としては嫁いでくる王妃と国王を不仲にして隣国との折衝がさらに悪くなれば、自分の出番が来ると思っていた。何しろデングラー公爵の母は先代国王の姉王女なんだ」

「では従兄弟……」

「そうだ」

「でも反王家派に王女が嫁いだのは何故ですか」

「懐柔ーー出来なかったけれどーー先代デングラー公爵は相当の切れものだったから王女を娶るように王命がおりて娶っても決して尻尾を出さなかった。だが二つの誤算があった」

「なんでしょうか」

「自分の寿命と王妹の活躍だ。第一側妃を押し込み王妃を遠ざけても、伯母の王女と違って聡明な王妹が隣国との不和を解消してしまった。しかも鉱山による産業が隆盛となり国力が上がった。そんな時に自分がぽっくりと急死してしまった。残ったのは恋愛脳の後継だけだ」

「では今は反王家派は勢いをなくしているのですね」

「そう、デングラー公爵としてはやり過ぎの第一側妃と第二王子を消そうとしていた。第二王子が自分の娘と公の場で婚約破棄でもしてくれたら第二王子を速やかに王家から追い出せるから」

「だからあえて学園内で娘が虐げられてても口を出さなかった」

「そうだ。流石に殺されるとまでは思ってなかっただろうが、娘を駒にしか見てなかったのだろうな」

「でもなぜ消す必要があったのですか?」

「それは第二王子は国王の子ではないからだ」
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