悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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「お呼びと伺いまして参上いたしました。本学園の語学教師のダニエル・アンカーでございます」

 入ってきたダニエルは落ち着いた物腰に銀の縁の眼鏡をかけ、いかにも穏やかな人物像を作っていた。

「これはデングラー公爵からの文書だ。目を通してこれからする質問に嘘偽り無く答えてくれ」

 アランがそう言ってダニエルに先程デングラー公爵が渋々サインをした文書を見せた。
 ダニエルはそれを渡されてちらりと横目で見て、ハッとして食い入るように見つめた。

「ーーデングラー公爵家当主御本人のサインと認めますーーー」

 ダニエルはサバサバした物言いで眼鏡を外してたたみ、胸ポケットにしまった。眼鏡を外したダニエルは急にイメージが変わった。

「殿下に直答してもよろしいのですか?」

 アランの方を見て尋ねた。

「構わない。質問には真実で答えてくれ」

 ダニエルはフェリクスにそう言われると皮肉げに唇の端を歪めた。

「まず、ダニエル・アンカー 君の目的はなんだ?」

 アランが眉を顰めて言った。

「殿下 あまりにも大雑把過ぎませんか?」

「いや、今回のことは一つの根っこから来ている。それが何か探っていたが、先程、君の出生について聞かされてわかった様な気がする」

 ダニエルはそう言われて上目遣いでフェリクスを見て言った。

「公爵が言った事とは、私が主である奥様の娘を虐待した頭のおかしい女とその女がしている事を知っていても嗜めることすらしない愚かな男の間に生まれたと言うことかな」

「君は令嬢が虐待されている時にその屋敷にいたのか」

「妹と二人、頭のおかしい母親と一緒に公爵邸にいたさ。まるで妹の方が公爵令嬢であるかのようのに育てられ、お嬢様はボロ雑巾のように扱われていた。乳母である母に逆らう使用人はいなかった。公爵に嘘の報告されて辞めさせられるからだ。狭い世界での暴君だな。それを許して自分の娘に興味のない公爵も最悪さ。俺がお嬢様を庇っても所詮子供のすることで限度があった。母親の目を盗んでパンを食べさせて、母親が妹を着飾らせて悦にいってる間にこっそり身体を拭いてやり絵本を読んであげた。俺を『ダー』と呼んで懐いてくれて可愛くて可愛くて宝物だった」

 思いもかけない告白が始まってフェリクスもアランも言葉が出なかった。

「日が経つにつれ母親の虐待がより一層酷くなった。俺は妹がお嬢様を突き飛ばすのを見て思わず妹をぶってしまった。それで俺がお嬢様を陰で庇っていることに気が付かれ、お嬢様にパンすら渡せなくなってしまった。もうあいつらを殺すしかないと思い詰めた時にあの偽善者公爵が乗り込んで来た」

 そこで言葉を切ったダニエルは目を瞑った。アランがそっと尋ねた。

「侍女が公爵に注進したのだったか?」

「俺が新しい侍女に頼んだ。お嬢様をかわいそうに思ってくれたらしくて協力してくれたんだ……お陰で公爵が両親を処刑してくれた。これでお嬢様は父親に愛されて幸せに暮らせると思った。それに比べたら自分の親が死んだことも気にならなかった。お嬢様に幸せになってもらいたかったんだ」

「君と妹は孤児院に入れられた」

 フェリクスが聞くとダニエルは頷いた。

「両親と一緒に処刑されるだろうと思っていたから意外だった。別に死んでもよかったけれど、別れ際にそれまでほとんど感情の動きのなかったお嬢様が『ダー』と言って俺と離れるのを嫌がって泣いてくれたんだ。それを見た俺はお嬢様のために生きていこうと決めた」

「……妹のためじゃないのか……」

 アランがぽつりと聞くとダニエルは鼻で笑った。

「自分の妹ながら母親に似て性悪でどうしようもない女さ」

「君の妹は……」

 フェリクスがそう聞くとダニエルは自分の目の前の机を拳で殴りつけた。

「そう、あの殺人犯のマリア・ヘニッヒさ」
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