悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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 デングラー公爵は答えなかった。フェリクスもそれ以上問い詰めることもなかった。

「公爵に聞きたいことはこれではない。公爵が推薦人になっているダニエル・アンカーのことだ」

「……どのようなことでございましょう」

「ダニエルは推薦人であり後ろ盾のあなたの名前を出して尋問を拒否する可能性がある。彼には令嬢を学園で虐げていたアルベルトとその側近を唆した疑惑があり今回の殺害事件にも関わっているかもしれない。それなのにあなたの名前で拒否されると困るんだ。真実を話すまで彼を尋問する許可をくれ」

 デングラー公爵は探るようにフェリクスを見た。

「教師のダニエルが生徒と徒党を組んで娘を虐げるなどと俄かに信じがたい」

 そう言ってデングラー公爵は皮肉げに言った。そこにアランが横から口を挟んだ。

「閣下、閣下は令嬢を虐げて殺した人間が憎くないのですか?先程は令嬢を遠ざけたことを後悔するように言われてましたが、今は他人のアンカーを庇っていらっしゃる」

 デングラー公爵はアランを睨みつけたがアランはどこ吹く風で元の筆記に戻っていた。

「公爵、アランの言う通りだ。真相を知りたくないのか」

 ぐっと言葉に詰まって考え込むデングラー公爵。アランはそれを見て自分が書いたものを持って立ち上がってデングラー公爵の元に行った。

「フェリクス殿下の聴取にあたりデングラー公爵家に不利益に当たろうとも真実を包み隠さず述べる事を認める」

 声に出して読み上げて、その紙をデングラー公爵の前に置いた。

「署名をお願いします」

 デングラー公爵は手元に置かれた王家の紋章の透かしのある紙に書かれた文字を睨みつけるように呼んでいたが、のろのろと手をあげて左手で紙を抑え右手で自分の名をサインした。

「今手元に我が家の紋章の印が手元にありません」

 そう言ってアランに渡そうとする。アランはそれを押し返して言った。

「本家の御当主である印の特別なサインをしていただきたい。それは紋章の印などより効力があるはずです」

 デングラー公爵はそう言われて思わず目を剥いた。なぜ知っていると苦虫を噛み潰したような顔をして紙を手元に戻し、先程のサインの下に到底読めないような飾り文字を組み合わせたサインをした。

「……これでよろしいでしょうか」

 フェリクスはアランが持ってきた紙と手元にあった紙をじっと見比べてから言った。

「間違いないようだな。それでは公爵、手間を取らせた」

 デングラー公爵は無言で一礼して出て行こうとしたその後ろ姿に向かってフェリクスが言った。

「ダニエルに罪があると判断したら処刑はこちらでする」

 ぴくりと肩が動いたがそのまま出て行った。


 公爵が立ち去る足音が遠ざかってからアランがフェリクスに言った。

「アンカーはデングラー公爵家の犬ですかね」

「あの公爵が単なる親切で身分を買って教育を受けさせてやる訳はない」

「でしたら公爵は令嬢がアルベルト殿下と側近に虐げられていたことは知っていたと言うことですか?」

 フェリクスはため息をついた。

「そう言うことだろう」

「でしたら『呪』の話は嘘?」

「いや、本当だろう。元婚約者の伯爵家を調べられたすぐわかるような事を王族の私に言わないだろう」

「では、『呪』のせいにして令嬢への関心の無さの言い訳にした……」

「そんなところだろう。私が調べたのには『呪』を打ち返すのは相手を思いやる見返りを期待しない愛だけだ。公爵令嬢は無償の愛をくれた母を亡くし、父親の愛が得られなかったために『呪』を打ち返せなかった。それだけなんだが公爵は『呪』を言い訳に使ってるわけだ。実際元婚約者が死んで『呪』が消えても娘に関心はないのにな」

「見返りを期待しない愛なら男女間での愛ではダメということですか」

 フェリクスは苦笑いをした。

「男女はどうしてもエロスが混じるから難しいかもしれないな……」

 アランは納得のいったような顔をした。エリックがおかしな空気を打ち破るように咳払いをして言った。

「殿下、では次はダニエル・アンカーを呼んでよろしいですか」

 エリックの問いかけにフェリクスは頷いた。
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