25 / 65
20
しおりを挟む「失礼します。デングラー公爵閣下がおいでになりました」
エリックがデングラー公爵の入室を告げた。
「検死も終わってすぐにも戻りたいだろうに申し訳ないが、至急確認したいことがあるので来てもらった。まずは座ってくれ」
デングラー公爵は勧められた先程までフリッツが座っていた椅子に座った。
「いいえ、まだ柩が届いておりませんのでまだ戻れません」
「なぜ柩に納めてから帰邸するのですか」
横からアランが尋ねるとデングラー公爵はアランを見て答えた。
「ーーーー遺体の損傷が激しいのです。最初は私が抱いて帰るつもりでしたが、医師から全身を骨折していて打撲も受けているので、抱き上げるとーーそのーーー遺体が損壊してしまう可能性があると。柩に納めて帰邸した方がいいと言われたのです。一度も抱いてあやしたこともない娘を最後に抱き上げようと思ったのですが、愚かで情け無い父はそれも叶いませんでした」
その言葉にフェリクスもアランも返答することもできない。それでも少し間を置いて話題をフェリクスが変えた。
「ボートン医官総長か」
「はい、彼が来るとは意外でした」
「アイリーン医師の付き添いとか言っていたが」
「はい、そう言ってましたが」
「デングラー公爵はボートン医官総長と親しいのか?」
「アイリーン嬢が私が後見しているものと婚約しましてその時に何度か会っています」
その名前を聞いてフェリクスとアランは目を見交わした。
「後見していると言うのは……」
デングラー公爵はフェリクスを見ながら答えた。
「ここの教師をしているダニエル・アンカーです」
「ダニエル・アンカーはアンカー伯爵家の三男だが養子だと聞くが、それはーーー」
デングラー公爵はフェリクスがなぜそんなことを聞くと言う顔をして言った。
「私がアンカー伯爵に頼みました」
「なぜそんなことを?公爵はダニエルとどう言う関係なのだ?」
デングラー公爵は言いにくそうだったが
「娘を虐待していた乳母の話をしましたが、ダニエルはその乳母の息子です」
と言ってフェリクスを見た。フェリクスはゆっくりと口を開いた。
「令嬢の乳兄弟ということか?」
「いいえ 乳姉妹はダニエルの妹の方です」
「どういうことか説明してもらっていいか?」
フェリクスはこれは動機に近づくのではとゴクリと唾を飲み込んだ。
「乳母と私の従者の間には子供がいました。ダニエルと妹です。親族は処刑されたような夫婦の子供達の引き取りを拒否したので孤児院に入れたのですが、ある日ダニエルが尋ねて来たのです。私は乳母は仕方ないが従者をしていた父親まで問答無用に処刑をした事を後悔していました。自分の情けなさで虐待に気がつかないだけなのに、夫婦なのに止めなかった。それだけで処刑してしまった。後から考えると娘と自分は別居していたから私の従者は妻の乳母とは別居だったから知らなかったかもしれない。それなのに一言も弁解せずに斬られるままでした。だから尋ねて来たダニエルが妹を養うために学園に行って自立したいので援助して欲しいと……」
「それで貴族の身分を買ってやったのですか?令嬢には冷たいのによその子供には優しいのですね」
アランが思わず言ってしまった。
「私の罪悪感からです」
デングラー公爵は俯いた。
「それでダニエルが学園を卒業して教師に採用される時の推薦人になったのですね?」
「そうです。学業の成績も良く人当たりもいいので採用試験も難なく通りました」
「妹はどうなったんですか」
「孤児院にいる時に引き取りたいと言う貴族がいたから渡したと言ってました」
アランがもしやと思いながら聞いてみた。
「その妹の名前と引取先は?」
「……マリアだったと。引き取った貴族はヘニッヒ男爵だったと思います」
こんなところに結びつきがあったのかとフェリクスは驚きを隠せなかった。
115
お気に入りに追加
6,190
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?
柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。
理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。
「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。
だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。
ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。
マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。
そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。
「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。
──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。
その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。
けれど、それには思いも寄らない理由があって……?
信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。
※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
この国の王族に嫁ぐのは断固拒否します
鍋
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢?
そんなの分からないけど、こんな性事情は受け入れられません。
ヒロインに王子様は譲ります。
私は好きな人を見つけます。
一章 17話完結 毎日12時に更新します。
二章 7話完結 毎日12時に更新します。
私は何もしていない!〜勝手に悪者扱いしないでください〜
四季
恋愛
「この方が私のことをいつも虐めてくるのです!」
晩餐会の最中、アリア・フルーレはリリーナから突然そんなことを言われる。
だがそれは、アリアの婚約者である王子を奪うための作戦であった。
結果的に婚約破棄されることとなってしまったアリア。しかし、王子とリリーナがこっそり関係を持っていることを知っていたので、婚約破棄自体にはそれほど驚かなかった……。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】
仲村 嘉高
恋愛
魔法と剣の世界に転生した私。
「嘘、私、王子の婚約者?」
しかも何かゲームの世界???
私の『宝物』と同じ世界???
平民のヒロインに甘い事を囁いて、公爵令嬢との婚約を破棄する王子?
なにその非常識な設定の世界。ゲームじゃないのよ?
それが認められる国、大丈夫なの?
この王子様、何を言っても聞く耳持ちゃしません。
こんなクソ王子、ざまぁして良いですよね?
性格も、口も、決して良いとは言えない社会人女性が乙女ゲームの世界に転生した。
乙女ゲーム?なにそれ美味しいの?そんな人が……
ご都合主義です。
転生もの、初挑戦した作品です。
温かい目で見守っていただければ幸いです。
本編97話・乙女ゲーム部15話
※R15は、ざまぁの為の保険です。
※他サイトでも公開してます。
※なろうに移行した作品ですが、R18指定され、非公開措置とされました(笑)
それに伴い、作品を引き下げる事にしたので、こちらに移行します。
昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。
※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる