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閑話 ヨーゼフ
しおりを挟む俺はヨーゼフ・ヘルマン いや父に廃嫡されて平民に落ちた俺はヘルマンの姓は名乗れないな。
なぜこんな事をしたかと父に聞かれたが、自分でも全くわからない。記憶がないわけではない。ちゃんと自身がしでかした事であると自覚がある。ただいつも自分の意思でない事をやらされていると言う焦りはあった。
それが父の『どこでどう間違ってしまったんだ!ヨーゼフ!』
と言う叫びを聞いた時自分を縛っていた何かが消えて思考がクリアになり、ぼんやりとしていた自分がやった事が一気に自分に入ってきた。
マリアが我らにまとわりつくようになって、最初はアルベルト殿下は何を考えているのだろうと呆れていたのに、物陰でマリアに飛びつかれてキスをされた時何かを口に入れられた。しばらくして己の血が一点に集り昂った。思わずマリアを抱えて空き教室に飛び込んでしまい、マリアの下着を剥いていた。
今から考えると鬼畜の所業だが、マリアはアルベルト殿下とだけでなく、エトムント、フリッツ、俺と男女の関係にあった。そして行為の時マリアから避妊薬だと渡される薬を飲むと意識がより一層もやがかかるのだ
マリアの言いなりになってアルベルト殿下の命令とはいえ、デングラー公爵令嬢を打ち据えた事もある。マリアをいじめたとアルベルト殿下は言うが証拠はない。なのに鞘に入ったままとは言え剣でデングラー公爵令嬢の腹部を殴りつけた。彼女がデングラー公爵に怪我の理由を訴えたらその時でもただでは済まなかっただろう。
なぜか一切デングラー公爵家から我が家に抗議もなかった。エトムントが言うには公爵は娘を疎んじているから何をしても構わないのだと。だが、流石に生徒の口は防げずひそひそと噂になった。遠巻きにされていると言う自覚はあった。でもマリアの甘い声に痺れマリアの柔らかな身体に溺れていた自分はなんとも思ってなかった。
そんな爛れた日々を送っていた時にエミリアに呼び止められた。エミリアは俺の幼馴染だ。幼い頃から共に遊び学び、俺が鍛錬所に通うようになると差し入れを持って来てくれた。年頃になって婚約者になった時は飛び上がるほど嬉しかった。彼女を一生大事にしていくつもりだった。そう俺はエミリアを愛していた。愛を告げると恥じらってほんのり朱に染まる頬を撫でるのが好きだった。
それなのに呼び止められた時に思った事は『うるさい』だった。どうせ浮気をしているから苦情を言いに来たのだろうと思った。
だが、エミリアが言ったのは『ヨーゼフ あなたはいつから弱いものいじめをする様になったの?』だった。浮気でなくそんな事を言われて動揺した。思わずエミリアを睨みつけたがエミリアは引かなかった。
「デングラー公爵令嬢は子爵令息のあなたが無礼を働いていい人じゃないわ。それよりもなによりもあんなに儚げで非力な女性を虐げることに手を貸すあなたに騎士の資格はないわ!」
それだけ言ってエミリアは身を翻して去っていった。その時は血が引いた。エミリアに言われた事が身に染みて来たのだ。意識がクリアになりそうになったその時マリアが抱きついてきた。
「いやだぁ ヨーゼフ 婚約者に未練があるのぉ。エミリアだっけ彼女は私をいじめる酷い人なのよ。余所見をしないでよぉ」
俺はエミリアはそんな事をしない。そう言いたかったのに、マリアがそう言って飛びついてキスをして来た。また錠剤らしいものを舌を絡めて奥に押しつけて来た。長いキスの間に口の中で溶けてきて、俺はマリアの腰を引き寄せていた。
数日後エミリアとの婚約が解消された事を知らせる事務的な通知が貴族院から来た。誰が申請したのかと酷く動揺した。エミリアは俺を愛してるはずだった。俺もエミリアだけ愛していたはずだった。どこでどう間違ったのか?
そう思っているのにマリアの言うことに逆らう事ができない。エトムントが立てたデングラー公爵令嬢がマリアを傷つけて階段から落とそうとしたところをデングラー公爵令嬢の義弟であるエトムントが救うと言う陳腐な企みが失敗してマリアが拘束されたと言う。
頭の中はマリアを救え!救え!とそれだけが鳴っていた。
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