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しおりを挟むグレーテの涙が一区切りになるまで教室内の皆は咳き一つたてなかった。
「フェス侯爵令嬢 今ホフマン侯爵令息との婚約は継続しているのか?」
涙をハンカチで吸い取れないほど泣いたグレーテは目の周りが真っ赤だった。それでも気丈に顔を上げてフェリクスの質問に答えた。
「婚約は解消いたしました。これもデングラー公爵令嬢のおかげです。私の父に手紙を出してくださったのです。私が如何にホフマン侯爵令息に酷い扱いを受けているか。全て起こった事を書いて調べて欲しいと。すぐ父は私に真偽を確かめて動いてくれました」
「フェス侯爵令嬢 あなたの家族は皆仲が良いのか?」
一見全く関係ないことをフェリクスはグレーテに聞いた。グレーテは少し驚いたようだが落ち着いた声で答えた。
「はい 父母は幼馴染で望み望まれての婚姻でしたので、父母には愛人もおりませんし、私と兄を愛しんで育ててくれてます」
「……やはり愛情か……」
フェリクスが振り返ってアランを見た。アランはフェリクスに頷いた。
「父は学園内での事を細かく調べて調査書を作りホフマン侯爵家に持って行ってホフマン侯爵と話し合ってくれました。ホフマン侯爵と父は学園時代からの友達で実は母を争った仲なのだそうです。その縁でホフマン侯爵家の方から婚約を申し込まれたのです。ですがこんなことになってしまったので、父ははっきりフリッツ様の不義での婚約解消である事を明記して貴族院に届けてくれと要求しました。ホフマン侯爵は父の持ってきた調査書に目を通し自分でもお調べになったようで、父の要求を全て飲み、慰謝料も支払っていただきました」
グレーテは膝の上の濡れたハンカチをぎゅっと握りしめて言った。
「父にデングラー公爵令嬢はもっと酷い目に遭っている、なんとかならないのかと訴えました。私を守るために距離を置いたけれどもこんなに心配して父に救いを求める手紙を送ってくれる優しい彼女も苦境から救いたいと。父は動いてくれましたが『デングラー公爵が娘に全く興味がないので養子の義弟が好き勝手しているようだと』と教えてくれましたが、第二王子の婚約は王命で口を挟めないとのことで、手をこまねいていたらーー」
グレーテの膝の上の拳がより一層固く握られた。
「ーーーーー今日の事件が起きてしまいましたーーー」
振り絞るように言うグレーテの声は悲痛で聞いているものの涙を誘った。
「彼女は距離を置くように言った時に『自分には誰かの『呪』がかけられている。だから誰とも親しくしないようにしていたのに、あまりに優しくしてもらってつい望んでしまい、あなたには迷惑をかけた。本当に申し訳なかった。私のことなど忘れて欲しい』と言っていました」
フェリクスは目の前の机から身体を前のめりにして尋ねた。
「ーー彼女は『呪』と言ったんだねーーー」
「はい 私は初めて聞く言葉だったのでそれは何かと聞いたのですが『あなたにこれ以上被害を及ぼしたくない』と教えていただけませんでした。ただ」
「ただ?」
「彼女は読書家でした。勉強だけでなく、語学も、雑学も本当に物知りでした。凄いですねと褒めると『孤独なので本にのめり込んで孤独である事を忘れようとしていただけ』とおっしゃってました。そして『呪』はその過程で知ったとーーー」
「そうかーーー彼女は覚悟をしてしていたんだな」
「もっと早く身内の方が彼女を助けていてあげてくれたらーーー」
「どう言う意味?」
「彼女が最後にぽつりと言われたんです。『呪』に対抗するのは愛情だけだと。でも自分には望んでも得られない。だから諦めている。ーーーーデングラー公爵が彼女に父親としての愛情を与えてくださっていたらーーー」
グレーテはまた泣き出してしまった。
フェリクスは泣いているグレーテを見ながらグレーテは両親の愛で包まれている。だからデングラー公爵令嬢と友情を育むことができたのだろうと考えていた。
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