悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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   アランがその宛名をちらりと見た。

「ジョエルを呼ぶのですか」

「いいや 内偵を入れてる進捗状況の報告を求めたのだ」

「わかりました」

 アランが答えて立ち上がり、フェリクスも立ち上がるのを待った。フェリクスはおもむろに立ち上がり副団長に向かって声をかけた。

「副団長 ヨーゼフは憑き物が落ちたようだ。そこまで縛り上げないでもいいだろう。腕の拘束だけで捉えておけ」

「はっ!」

 近衛騎士に足の縄を解いてもらうのをヨーゼフは申し訳なさそうに見つめていた。足の縛りが解かれたら椅子から滑り降りて正座した。

「詫びて済むことではありませんが、皆様に剣を向けた事深くお詫びします」

 そう言って縛られたまま深々とお辞儀をした。周りの近衛騎士達はどうしていいかわからずに視線を合わせられなかった。

「ヨーゼフ 悪夢から醒める愛情があってよかったな」

 フェリクスにそう声をかけられて、ヨーゼフはハッとして顔を上げた。

「……だが犯した罪は罪だ。なくなりはしない」

 フェリクスの言葉を噛み締めるかのように聞いてヨーゼフの俯いた肩が震えていた。

「あとは頼んだ」

 近衛騎士に声をかけて、フェリクスとアランは複雑な思いを噛み締めながら戻る廊下を歩いていた。

「なあ アラン」

「なんでしょうか」

「あんな事を言ったが複雑だな。今度のことは確かな証拠を揃えるのが難しい。ヨーゼフのようになったものを本当に裁くべきか悩むな」

「……殿下のお気持ちはわかりますが、全て明らかになった時にどのように裁くか決めるのは国王陛下です。我らにはどうにもできません」

「そうだな」

 二人は無言で元の教室に入った。そこには制服を着た女生徒が一人座っていた。アランがその姿を認めてフェリクスに説明した。

「何人にも聞き回ったのですが、皆証言を嫌がりまして、護衛達も困ったのですがやっと彼女が証言をしてくれるとーー」

 女生徒が立ち上がり貴族女性の礼を美しくして見せた。

「お初にお目にかかります。グレーテ・フェスと申します」

「フェス侯爵令嬢か」

「左様でございます」

「デングラー公爵令嬢とは友人だったのか」

 そう聞かれると辛そうに視線を下げた。

「ーーー入学時に席がお隣になりまして、あまりに儚げで美しい方でしたので憧れてお声を掛けさせていただきました。お昼などご一緒させていただいたのですが、婚約者であるアルベルト殿下と全く交流がない事に驚きました。それどころかアルベルト殿下は廊下ですれ違うと憎々しげに睨みつけるのです」

 そこまで語って視線をフェリクスに向けた。

「最初はアルベルト殿下だけが酷い態度でした。それなのに男爵令嬢がアルベルト殿下と側近方にまとわりつくようになったら側近方もそれは酷い態度を取るようになりました……その中に私の婚約者のフリッツ・ホフマンがおりまして……」

「フリッツ・ホフマン侯爵子息ーーーー宰相の子息だな」

「左様でございます。私がデングラー公爵令嬢と行動を共にしておりますと、フリッツが私を的にするようになり、私のエスコートを全て無視をし、月に一回のお茶会も来なくなりました。学園で会えば罵詈雑言を浴びせられるようになったのです。デングラー公爵令嬢は心配して下さって『私と一緒にいるとあなたが酷い目に遭ってしまう。どうか距離をおいて』と言われました。なぜあの時彼女の言葉に頷いて距離を取ってしまったのか。理不尽な目に遭う彼女を守らなかったのか。今は後悔ばかりです。私は婚約者から酷い目にあわせられていても彼に未練があったのです。あんな男さっさと見限ればよかった」

 グレーテはハンカチを取り出し、綺麗に刺繍したそれに涙を吸わせた。グレーテはハンカチで己の目を抑えた。そのハンカチは彼女のイニシャルが巧みに飾り文字で刺してあった。

「このハンカチも彼女が刺繍して下さったのです。この世にもういらっしゃらないなんてーーーー」

 止めどなく涙を流す彼女を見て、デングラー公爵令嬢を悼んで落涙する生徒は彼女が初めてかもしれないとフェリクスは思った。
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