17 / 65
14
しおりを挟むアランがその宛名をちらりと見た。
「ジョエルを呼ぶのですか」
「いいや 内偵を入れてる進捗状況の報告を求めたのだ」
「わかりました」
アランが答えて立ち上がり、フェリクスも立ち上がるのを待った。フェリクスはおもむろに立ち上がり副団長に向かって声をかけた。
「副団長 ヨーゼフは憑き物が落ちたようだ。そこまで縛り上げないでもいいだろう。腕の拘束だけで捉えておけ」
「はっ!」
近衛騎士に足の縄を解いてもらうのをヨーゼフは申し訳なさそうに見つめていた。足の縛りが解かれたら椅子から滑り降りて正座した。
「詫びて済むことではありませんが、皆様に剣を向けた事深くお詫びします」
そう言って縛られたまま深々とお辞儀をした。周りの近衛騎士達はどうしていいかわからずに視線を合わせられなかった。
「ヨーゼフ 悪夢から醒める愛情があってよかったな」
フェリクスにそう声をかけられて、ヨーゼフはハッとして顔を上げた。
「……だが犯した罪は罪だ。なくなりはしない」
フェリクスの言葉を噛み締めるかのように聞いてヨーゼフの俯いた肩が震えていた。
「あとは頼んだ」
近衛騎士に声をかけて、フェリクスとアランは複雑な思いを噛み締めながら戻る廊下を歩いていた。
「なあ アラン」
「なんでしょうか」
「あんな事を言ったが複雑だな。今度のことは確かな証拠を揃えるのが難しい。ヨーゼフのようになったものを本当に裁くべきか悩むな」
「……殿下のお気持ちはわかりますが、全て明らかになった時にどのように裁くか決めるのは国王陛下です。我らにはどうにもできません」
「そうだな」
二人は無言で元の教室に入った。そこには制服を着た女生徒が一人座っていた。アランがその姿を認めてフェリクスに説明した。
「何人にも聞き回ったのですが、皆証言を嫌がりまして、護衛達も困ったのですがやっと彼女が証言をしてくれるとーー」
女生徒が立ち上がり貴族女性の礼を美しくして見せた。
「お初にお目にかかります。グレーテ・フェスと申します」
「フェス侯爵令嬢か」
「左様でございます」
「デングラー公爵令嬢とは友人だったのか」
そう聞かれると辛そうに視線を下げた。
「ーーー入学時に席がお隣になりまして、あまりに儚げで美しい方でしたので憧れてお声を掛けさせていただきました。お昼などご一緒させていただいたのですが、婚約者であるアルベルト殿下と全く交流がない事に驚きました。それどころかアルベルト殿下は廊下ですれ違うと憎々しげに睨みつけるのです」
そこまで語って視線をフェリクスに向けた。
「最初はアルベルト殿下だけが酷い態度でした。それなのに男爵令嬢がアルベルト殿下と側近方にまとわりつくようになったら側近方もそれは酷い態度を取るようになりました……その中に私の婚約者のフリッツ・ホフマンがおりまして……」
「フリッツ・ホフマン侯爵子息ーーーー宰相の子息だな」
「左様でございます。私がデングラー公爵令嬢と行動を共にしておりますと、フリッツが私を的にするようになり、私のエスコートを全て無視をし、月に一回のお茶会も来なくなりました。学園で会えば罵詈雑言を浴びせられるようになったのです。デングラー公爵令嬢は心配して下さって『私と一緒にいるとあなたが酷い目に遭ってしまう。どうか距離をおいて』と言われました。なぜあの時彼女の言葉に頷いて距離を取ってしまったのか。理不尽な目に遭う彼女を守らなかったのか。今は後悔ばかりです。私は婚約者から酷い目にあわせられていても彼に未練があったのです。あんな男さっさと見限ればよかった」
グレーテはハンカチを取り出し、綺麗に刺繍したそれに涙を吸わせた。グレーテはハンカチで己の目を抑えた。そのハンカチは彼女のイニシャルが巧みに飾り文字で刺してあった。
「このハンカチも彼女が刺繍して下さったのです。この世にもういらっしゃらないなんてーーーー」
止めどなく涙を流す彼女を見て、デングラー公爵令嬢を悼んで落涙する生徒は彼女が初めてかもしれないとフェリクスは思った。
105
お気に入りに追加
6,194
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる