悪役令嬢が死んだ後

ぐう

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閑話 第二王子アルベルト

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 私は第二王子アルベルト。母は側妃。母には私しか子供はいない。
 母はこの国の侯爵家の出だ。
 国王は金の髪に金の瞳。すらりと背が高く、剣も嗜む国王は王太子の頃から鍛錬を欠かさない。均整の取れた筋肉を纏う身体に整った見目麗しい顔。幼い頃から国王は母の憧れだった。残念ながら私は欠片も国王に似ていない。そっくりな外見はあの兄が受け継いでいる。


 母は国王に夢中だった。だが国王には第一王子時代から他国の王女の婚約者がいた。隣国との関係がうまくいかず牽制の意味で隣国を挟んだ国との婚姻政策を取っていた。権勢のある侯爵家であっても流石に重大な外交政策である婚姻に嘴は挟めなかった。

 祖父は母に王弟との婚姻を持ちかけたが母は頑として拒否をした。何がなんでも国王の妃になりたいと祖父に泣きついた。祖父は嫡子と年の離れた母を甘やかしていた。
 そのため母の願いをかなえるため相当無理をして母を側妃に押し込んだ。
 王子を得れば側妃と言えども王宮の中で権勢は得られ、王妃が王子を産めなければ王太子に自分の力で押し込んでやると約束したらしいが、祖父は母が側妃に入った時に急死した。

 跡取りの伯父は母を好いていなかった。母は父の溺愛を笠にやりたい放題だったからだ。そして母を側妃に押し込むために使った金品があまりにも多く侯爵家は傾いた。

 そんな状況で伯父は母の後ろ盾になろうとせず、領地経営のために領地に篭り切りになった。

 母が側妃に入ってから、王女が嫁いで来た。嫁いで来た時にすでに側妃がいた事で夫婦仲は最悪になったらしい。そして険悪だった隣国との仲も国境にまたがる形に鉱山が見つかり、我が国の王女が隣国の王太子に嫁ぐ形で条約を結んだ。王妃になった王女は無用になってしまった。
 王妃は離宮に別居することになった。が、母も寵愛を得ていなかった。
 
 結局国王の寵愛を得たのは国王が見初めた伯爵令嬢だ。側妃に上がりすぐ第一王子を産み、続けて第一王女を産んだ。

 母は焦った。それでもなんとか私を産んで私を優秀で何者にも負けない王子として育てようとした。
 私の家庭教師や剣の教師に私の噂を流布するように金を渡していた。
 第一王子は見目麗しいが平凡と評されていたことに母は安堵し、私の後ろ盾にとデングラー公爵令嬢との婚約を国王に強請り、叶えることに成功した。


 王宮の貴族の子女の集まりで時々見かけたデングラー公爵令嬢は金の髪に紫水晶の眼、整った容姿に控えめでありながら凛とした姿に私は目を奪われていたので、母の強引な婚約でも決まった時は飛び上がるほど嬉しかったのだ。今でもその時のこれは現実かと思うふわふわした心持ちを覚えている。


 なのに婚約者との顔合わせで二人きりで会う場所に行けなかった。当然行くつもりだった。彼女が婚約者で嬉しい。仲良くしたいと告げるつもりで薔薇の花束も用意したのに行けなかった。ふと気がついた時にはとっくに顔合わせの時刻は過ぎていた。彼女は私を待ち続け来ぬ人を諦めて帰って行ったそうだ。侍従になぜ迎えに来ないと怒鳴ってしまった。だが侍従だけでなく侍女や女官、近衛騎士まで私を探し回ったのだが見つからなかったという。私は自室にいたのだ。ふと気がついた時に侍従が飛び込んで来て『いつからこちらに!何度もお探ししたのに!』と騒ぐのを聞いたのだ。

 それからそんな事の連続だった。ようやく会えても彼女の顔を見たくないのだ。なぜかわからない。そして邪険に扱ってしまう。悲しげに俯く彼女を目の端に認めると怖いほどの充足感を感じるのだ。違う!自分の意思ではない。絶対に違う!

 母には酷く叱られた。デングラー公爵の後ろ盾がなくなったらどうすると。でも何故か公爵から苦情は一度もなかった。どんなに酷く彼女を扱っても公爵は興味が無いようだった。


 怖かった。自分の意思ではない事ばかりやらせられて自分は一体何をしているのかと。そんな日々に優秀とか言われていた勉学にも身が入らず、使い手と褒められた剣の鍛錬にも身が入らなくなった。

 そして学園に入学してマリアが擦り寄って来た時何故かほっとした。そうか、自分はこの女の駒になるためにこんなふうになったのかと納得した自分がいた。



 


 

 
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