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しおりを挟むそうフェリクスがつぶやいた言葉は小さくて誰の耳にも届かなかった。
「ご苦労だった。また証言してもらうかもしれないが今はここまででいい」
フェリクスがそう言うと、マークが立ち上がり敬礼をした。出入口の同僚がマークを見送り、次の目撃者を中に招いた。
「私は近衛第一騎士団所属エルビス・モートンです」
出入口でマークと同じように踵を揃え敬礼をした。フェリクスはエルビスに向かい
「座りたまえ。君が目撃したことを余すことなく述べてくれ。まず君がなぜ目撃したか」
と言った。
「王立学園を視察に行かれる第一王子殿下の護衛が本日の私の任務です。近衛第一騎士団より副団長を頭にして、おそば近くの護衛として十名、学園外で警護をするものとして二十名選ばれました。私はおそばでの護衛に選ばれました。殿下が視察される校舎に先回りして不審人物がいないか調べに同僚のマーク・ギルデンと参りました。マークが二階、私が一階を担当し手分けして調べておりました」
「授業は終わったところだったのか」
「はい、ちょうど終わって生徒達が一階の教室から出て行くのを見ました。終わった教室から順に不審人物はいないか危険物がないかと調べていました。そこにマークの叫び声が聞こえました。何かあったのかと急いで声のした方に向かいました」
エルビスは息を整えるために一度言葉を切った。フェリクスが重ねて疑問をぶつけた。
「そこで目撃したのは」
「階段を転がり落ちてくる人間の姿です。制服のスカートが見えたので女性だろうと思いましたが落ちている時は判然としませんでした。その人は階段の段に身体を打ち付けながら落ちてきました。慌てて駆け寄り脈を診ると既に息はしていませんでした」
「階段の上には誰がいた」
「その場で見上げると階段の一番上には血が滴るナイフを持った女性と同僚のマークが立っていました」
「その女性の様子は」
「半狂乱のようでした。『私じゃない!勝手にあいつが落ちて行った!私は悪くない!私はヒロインなのよ!』と叫んでおりました」
「ヒロイン?わからない言葉を吐く加害者だな」
フェリクスは首を捻った。それでも先を促した。
「『自分は加害者の拘束をするので、エルビスは現場を保存してくれ』とマークが声をかけてきました。私と同様に階段を落ちてくる女性を目撃した女生徒達が悲鳴をあげ続け、動けなくなったものもいたために、同僚の応援を呼ぼうと思い側にいた男子生徒に近衛を呼んでくるように頼みましたが、その男子生徒は『…こんな馬鹿な…反対だろう……』とぶつぶつ言うだけで役に立たないので仕方なく、マークに声を掛けて自分でいこうとしました」
「その男子生徒は誰だ」
「あとで聞きましたところ被害者の義弟だと言うことでした」
「公爵子息か」
「残りの近衛は多数の悲鳴を聞いてこちらに向かっているところだったので私は現場を離れなくて済みました。そこで手分けをして具合の悪い女生徒を保健室に運び、野次馬を追払い現場を保全して第一王子殿下と園長にお知らせいたしました」
「現場で何か気になったことはあるか」
エルビスは言いにくそうだった。
「その……何というか……被害者はこの学園の女生徒だと聞きました。なのに死んでいるのに誰も近づいて来ないのです。怖いものを見たように距離を取るばかりで。何か違和感というのでしょうか……」
「そうか それは悲しんでいるものがいないと言うことだな」
「そうです!いつも一緒に学んでいた友でしょうに、なぜ誰も悲しまないのかと」
フェリクスは亡くなって公爵令嬢を哀れに思った。
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