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第二部

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  翌日は雲ひとつない快晴だった。空が高く空気も澄んでいた。絶好のピクニック日和だった。昨夜のうちにアンナニーナからピクニックへの誘いへの応諾を得ていた。快く引き受けてくれたか、渋々なのかわからないけれどね。

 朝食を済ませて料理長からバスケットを侍女が受け取り、侍女二人とアンナニーナが先に馬車に乗った。ジークハルトは護衛と打ち合わせをして、自分も馬車に乗った。

 アンナニーナは顔色は戻っていたが、表情はまだ寂しげだった。ジークハルトはアンナニーナが自分で言わない限り聞くまいと思って、全く関係のない書物の話などした。アンナニーナも自分の好きな本のことには楽しげに返事をしてくれた。

 国営公園に着いて馬車寄せに馬車を止めて、先に昼食を取る場所に敷物を敷き料理長自慢の昼食を侍女に番をしてもらい、護衛を一名残し残りの護衛に付かず離れずに着いて来てもらい、ジークハルトはアンナニーナと二人で木陰の間をゆっくりと歩いた。

「歩くのが早かったら言って」

 ジークハルトがそう言うと、アンナニーナはジークハルトを見上げて微笑んだ。
 今日のアンナニーナはふくらはぎまでの長さのスカート丈のワンピースだった。舞踏会で身にまとう様なコルセットで締め上げるドレスでなく、動きやすいワンピースにつばの広い帽子を被り帽子についたワンピースと同色のリボンを顎の下で結んでいた。足元も黒の編み上げブーツを履き軽やかに歩いていた。
 ドレス姿も見違える美しさだったが、こう言うカジュアルな姿も年相応の可愛らしさがあって素敵だなとジークハルトは思った。

 小鳥のさえずりが聞こえ、木々の間から木漏れ日がさし、足元に陰影を作っていた。

「疲れてない?」

「まだ歩き始めたばかりですもの」

 アンナニーナは足取り軽く、散歩道の煉瓦の上を踊る様に歩く。その楽しそうな姿にジークハルトは父のアドバイスを受け入れてよかったとしみじみ思った。自分では考え付かないアイデアだからね。

 二人で並んで歩いていたが、アンナニーナが梢を渡っていくりすを見て、そこに駆け寄って行った。梢に止まってこちらを見るりすの姿に『可愛い』とつぶやくアンナニーナの姿にジークハルトも可愛いと悶えた。

 もう少し進むと木の切り株を椅子にした場所があった。アンナニーナがそこにハンカチを広げて『座りませんか』と誘った。
 二人並んで黙って切り株に座ってみた。ジークハルトは何か言わなければと口を開きかけた時アンナニーナがジークハルトを見て言った。

「昨夜のことですが我が家のことでご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」

 ジークハルトは慌てて

「あなたは何も悪くないでしょう」

「でもフランクが大変失礼な態度をとりました」

「それは彼の問題であなたは関係ない。幼馴染と自称してましたが、なんの関係もないのでしょう?」

 そうジークハルトが言うとアンナニーナは俯いていたが、決心したように顔を上げた。

「私の母が亡くなった後父は祖父に言われても再婚しませんでした。母を忘れられないからだと聞きました。そのため祖父は私を後継に決めて後継教育を施しました」

 やりすぎなぐらいね。

「祖父の教育は熾烈でした。女の子らしいことは全て排除されて、男の子の様な振る舞いを求められました」

「お父上は助けてくれなかったのですか」

「女の子なのにやりすぎだと父は祖父と争ってくれました。でもいつもそんなことを言うならお前が再婚して男子を設ければいいのだと言われてしまって……」

 いやそれとこれとは違うと思うけど。

「そんな二人の争いを見て、私は祖父に頑張るので父を責めないでとすがりました。でもつらくて、よく影で泣いていたのです。それを慰めてくれたのが……」

 あいつか。フランク・ターラント

「彼でした。彼は隣の領地のターラント男爵の次男で我が家によく遊びに来ていたのです。当時は彼が救いでした。彼しか自分をわかってくれないと思っていたのです。でも父が継母と再婚して弟が生まれて後継が弟になったら、私を避ける様になったのです」

 はああ、最低だな。入婿狙いで取り入ったのか。
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