忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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「これは邸の階段に落ちていました。出てくるときに拾ったのですが、私にとってとても大事なもののような気がして持ってきてしまいました」
  
 レオンハルトはイヤリングを持ち上げて灯りにかざした。

「これは私があなたに贈った唯一の宝石なんだ。学園の入学祝いに贈った。高いものは買えなくて小さな宝石になってしまったけど、あなたは私が選んだということで、とても喜んでくれてお返しに紋章を刺繍したハンカチを贈ると言ってくれた。でも入学して以降あなたは私に近づかなくなった。今思うとマリアと一緒にいる所をあなたに見られたからなんだろうな」

 レオンハルトはイヤリングを私に渡して来た。

「こんな小さなものでも私が選んだということで喜んでくれたあなたの気持ちを踏みにじった私は何と愚かなと思う。マリアは口を開けば贈ってくれるなら、公爵家に相応しい宝石をと言っていたのに、私は目が開いていなかった」

 本当に愚かな男。でも騙されたのはあなたよ。だれのせいでもない。あなたがしたこと。私はユリアとは違うから、あなたを許さない。あなたを私という檻に入れてあげる。どこかの誰かとまっさらな幸せなんて手に入れさせてあげない。


 私はカップを置いて、レオンハルトの手を両手で包んだ。

「ユリア?どうした」

「覚えてないけど、私達は初夜もしてないのでしょう?それはあなたの希望?私なんかに触れたくないって」

 レオンハルトは驚いたようだが、緩やかに首を横に振った。

「私の卒業後すぐ父が亡くなったから婚儀は延期になるはずだった。でも母がなんとしても早く結婚しろとうるさく侯爵に頼んだことから、あなたの卒業後身内だけで結婚式をあげたんだ」

「そう言えばあなたのお母様は今どちらにいらっしゃるの?」

「あんなに父にいろいろ言ってたのに、父が亡くなったらあっという間にだんだんと弱って、私達の結婚後ニ年で亡くなった。最後は父の名前を呼び続けてた」

「愛し合っていらっしゃったのね。羨ましいわ。私には一生手に入らない」

 レオンハルトの手を離したら、レオンハルトが私の腕を引いて、抱きしめて来た。

「ユリア 愛してる。間違えてばかりの愚かな私だけど、どうか許して。愛を捧げさせて。結婚式が終わったらその足であなたは領地に行ってしまった。初夜はできなかったんだ。私は嫌われていると思って追うこともできなかった」

 追いなさいよ。愛があるとか言い張るなら追いかけて抱きなさいよ。なんて情けない。

「じゃあ、私がここで抱いてと言ったらあなたはどうする?」
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