忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

文字の大きさ
5 / 50

5

しおりを挟む
 別邸に追い出される日の朝になった。侍女が起こしに来て、支度を手伝ってくれた。レオンハルトは数日前から居ない。さすがに追い出す人間と顔を合わせたくないのかもしれない。

 何も持って行かなくてもいいと言われたがが、侍女が下がった隙に元いた部屋に戻り、ベッドサイドの机の引き出しを漁った。何も入ってなかったが、叩いてみたら底の音が違う引き出しがあった。二重底だろうと逆さまにしたら刺繍されたハンカチが箱に入ったものが出てきたので持ち出した。意味ありげに仕舞われていたので、過去を思い出すのに何かきっかけになるかもしれない。ドレスの下に隠して慌てて戻った。

 慌てて戻るとすぐ朝食の時間だと呼びにきた。朝食を食べるために食堂まで降りようとしたら、目が覚めて以来レオンハルトが介助して階段降りていたので、下を見ることもなかったが、一人だとなんだか怖くてゆっくりと下を見ながら降りていく。そうしたら階段の手すりと絨毯の間にイヤリングが落ちているのを見つけた。絨毯の色とイヤリングの宝石の色が同じなので、使用人が見逃したのだろう。衝動的にそれを拾い手のひらに握り込んだ。見覚えはないが、拾わないといけないと言う気持ちが強かったためだ。


 朝食の席にはレオンハルトは居なかった。
やっぱりねと思い気にも留めなかった。嘘ばかりつくのに疲れたのかもしれない。邪魔ものがいなくなれば楽になれるだろう。

 朝食はあまり食べられなかった。使用人が奥様はもともと食が細いですからもっと食べないとと話しかけて来た。
 珍しい。目が覚めて一ヵ月は経つが、階段から落ちる前のことを話す使用人は居なかったのに。だから聞いてみた怪我する前は私はこの邸で何をしていたの?

「ご立派な公爵夫人でいらっしゃってましたよ。公爵家を建て直されました。」

 公爵?誰のことだろう。侍女はそれだけ言うと下がってしまった。執事が出立の時間だと伝えにきた。紋章の入った立派な馬車が待っていた。

「この紋章は?」

「当家アイレンベルク公爵家の紋章です。」

 執事が教えてくれた。この紋章はハンカチに刺繍してあったものだ。

 フットマンが馬車の扉を開き乗せてくれた。馬車が動き出すと、後ろに咲き誇る薔薇園が見えた。薔薇園を窓からじっと見てると、薔薇園の中に泣きそうな女の子が立っているような気がした。
 綺麗な男の子に何か言われてうれしそうだったのに、今は何故泣きそうなんだろう。
 邸の玄関ホールを振り返ると使用人が外に出て手を振ってくれていた。意外と嫌われてなかったのかななどとぼんやり考えていた。




しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

旦那さまは私のために嘘をつく

小蔦あおい
恋愛
声と記憶をなくしたシェリルには魔法使いの旦那さまがいる。霧が深い渓谷の間に浮かぶ小さな島でシェリルは旦那さまに愛されて幸せに暮らしていた。しかし、とある新聞記事をきっかけに旦那さまの様子がおかしくなっていっていく。彼の書斎から怪しい手紙を見つけたシェリルは、旦那さまが自分を利用していることを知ってしまって……。 記憶も声もなくした少女と、彼女を幸せにするために嘘で包み込もうとする魔法使いのお話。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

処理中です...