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リヒャルト殿下
出会い
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店先にいる店主に、そこにかかっているツイード生地が欲しいと、伝えて包んでもらっていたら、ヤンが向かいの店の絹が欲しいというので、終わったら、そちらにいくからと伝えた。
支払いを済ませて、ヤンの居る向かいの出店に行こうとしたら、ドッと人並みに押されて、隣の店先に押し込まれてしまった。
「アンナ!どっちの色がいいと思う?」
いきなり、細くて白い手が私の腕に乗せられて、声の主が振り返った。
彼女が視界に入った途端、市場の騒がしい音が消えた、彼女から目が離せない、彼女の碧の瞳に自分が映ってる嬉しさに己の体温が上がる、これはなんなんだ。こんなに気持ちが高揚したのは生まれて初めて。
「申し訳ありません!一緒に来た人と間違えてしまって。」
彼女のまろやかな声に聞き惚れる。
あまりに動かない私に不審げに
「あの、どうかなさった?どこか痛くしました?」
声がかけられる。彼女に不審がられたくない、その一心で一生懸命に平常心を取り戻そうとする。
「大丈夫です。なんともないですよ。何かお困りですか?私でお役に立つのなら。」
生まれて初めて女の子に微笑みかける。お願いだから不審者に思わないでと願いを込める。
「あ、あの、このリボンどっちが似合うかなって思って。」
彼女の手に、こげ茶のミュンター織のリボンと緑の絹のリボンがあった。
「どちらもよく似合ってるよ。」
彼女のプラチナブロンドを見つめる。
「ありがとうございます。でも一本分しかお小遣いないの。」
彼女は残念そうに、リボンを見つめる。
「差し出がましいけど、こっちの色を私にプレゼントさせて。」
と、こげ茶のリボンを彼女の手から取り上げて、店主にお金を払ってしまう。これは私なのか、自分がこんな事するなんて、自分で自分が信じられない。
彼女は驚きで目を見張っていた。彼女にどうぞと渡すと
「ありがとうございます。大事にします。」
と胸元に抱きしめてくれた。
私がじっと見つめると、彼女も顔を上げてくれる。二人の視線があって、見つめあったが、ヤンがこちらに歩いてくるのが視界に入った。名残惜しい、もっと彼女の碧の眼を見ていたい、言葉を交わして、彼女のまろやかな声が聞きたい。溢れ出る気持ちに泣きたくなったが、なんとか押し込めて、またね、と彼女に別れを告げる。
ヤンが何かありましたと聞いてくるので、人並みに押されて、隣の店先で人にぶつかったので謝っていただけだよと嘘をつく。
自分がこんな事で、嘘をつくなんて、やはりあの人たちの子か。それにこの気持ちはなんだ。またね、などと言ったが、ミュンター国の人にまた会うことなどないだろう。掻き毟るような気持ちはなんだ。あの場所に駆け戻って、あなたはどこの誰と問い詰めたい。
今まで一度も味わったことのない気持ちに私は息もしづらくなってしまう。彼女に二度と会えないと思うと泣きたくなる。
支払いを済ませて、ヤンの居る向かいの出店に行こうとしたら、ドッと人並みに押されて、隣の店先に押し込まれてしまった。
「アンナ!どっちの色がいいと思う?」
いきなり、細くて白い手が私の腕に乗せられて、声の主が振り返った。
彼女が視界に入った途端、市場の騒がしい音が消えた、彼女から目が離せない、彼女の碧の瞳に自分が映ってる嬉しさに己の体温が上がる、これはなんなんだ。こんなに気持ちが高揚したのは生まれて初めて。
「申し訳ありません!一緒に来た人と間違えてしまって。」
彼女のまろやかな声に聞き惚れる。
あまりに動かない私に不審げに
「あの、どうかなさった?どこか痛くしました?」
声がかけられる。彼女に不審がられたくない、その一心で一生懸命に平常心を取り戻そうとする。
「大丈夫です。なんともないですよ。何かお困りですか?私でお役に立つのなら。」
生まれて初めて女の子に微笑みかける。お願いだから不審者に思わないでと願いを込める。
「あ、あの、このリボンどっちが似合うかなって思って。」
彼女の手に、こげ茶のミュンター織のリボンと緑の絹のリボンがあった。
「どちらもよく似合ってるよ。」
彼女のプラチナブロンドを見つめる。
「ありがとうございます。でも一本分しかお小遣いないの。」
彼女は残念そうに、リボンを見つめる。
「差し出がましいけど、こっちの色を私にプレゼントさせて。」
と、こげ茶のリボンを彼女の手から取り上げて、店主にお金を払ってしまう。これは私なのか、自分がこんな事するなんて、自分で自分が信じられない。
彼女は驚きで目を見張っていた。彼女にどうぞと渡すと
「ありがとうございます。大事にします。」
と胸元に抱きしめてくれた。
私がじっと見つめると、彼女も顔を上げてくれる。二人の視線があって、見つめあったが、ヤンがこちらに歩いてくるのが視界に入った。名残惜しい、もっと彼女の碧の眼を見ていたい、言葉を交わして、彼女のまろやかな声が聞きたい。溢れ出る気持ちに泣きたくなったが、なんとか押し込めて、またね、と彼女に別れを告げる。
ヤンが何かありましたと聞いてくるので、人並みに押されて、隣の店先で人にぶつかったので謝っていただけだよと嘘をつく。
自分がこんな事で、嘘をつくなんて、やはりあの人たちの子か。それにこの気持ちはなんだ。またね、などと言ったが、ミュンター国の人にまた会うことなどないだろう。掻き毟るような気持ちはなんだ。あの場所に駆け戻って、あなたはどこの誰と問い詰めたい。
今まで一度も味わったことのない気持ちに私は息もしづらくなってしまう。彼女に二度と会えないと思うと泣きたくなる。
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