36 / 43
ミラ編 IF
エレナとの再会 IF
しおりを挟むミラ編 「三人での新生活」以降のIF話です。なろうに投稿したものを改稿してあります。
ーーーーーー
その日はなんだかそわそわして来客を待った。私の会いたい人…昔は王太子殿下だった。あの方の面影を追い求め、交わした言葉を反芻して噛み締めた。でも今……私の会いたい人は。
「ミラ!馬車だよ!エミール様だよ!」
エミリアの甲高い声が響く。門のところで朝から待っていたのだ。慌てて門まで出迎えるとエミール様と一緒に入ってきた肩までに髪を切りそろえ、地味な服を着た女性は意外な人だった。
「エレナ!修道院はどうしたの?」
思わずエレナの手を取った。
「ミラ、元気そう。エミール様が院長様にお願いしてくれたの。私は家族がいないから院長様の許可と身元引き受け人がいれば還俗できるのよ」
「エレナ!」
エミリアもエレナに抱きつく。それを見ながらエミール様が『中に入って話をしましょう』とエミリアを抱き上げたエレナに言った。客間まで全員入ったところで、エミール様が説明をしてくれた。
「口の固い医師をホーク伯爵から紹介していただきました。明日診察に来てもらいます。エレナはマリアンヌの看護をお願いするために還俗してもらいました」
私達はエレナと再会できて嬉しいけれど、エレナは看病のための還俗でよかったのだろうか。そう思ったがエミール様の前では言えなかった。
「明日医師を連れて来ます」
そう言ってエミール様は帰られた。
エレナの荷物は私達と同じく何もないと言うので、空き部屋にエレナを案内して、居間でお茶を飲んでもらう事にした。
「紅茶なんて二十数年ぶり」
「修道院では水ですものね。エレナは還俗してもよかったの?次の院長はエレナだと思っていたの」
「そんなことはないでしょうけど、私はマリアンヌとエミリアが心配だったのよ。ミラには貴族のお兄さんがついてるから心配ないけど」
エレナはあの二人にそんなに思い入れあるのだろうか。修道院にいる頃からエレナは不思議な人だった。
翌日、エミール様が兄の紹介してくれたお医者様を連れてこられた。
「診察していただきますので、エミリアを近づけないで下さい」
エミール様にそう言われたのでエレナがエミリアと台所に行き、お菓子を焼くという。島では甘いものなど贅沢品だったが、ここでは素朴なお菓子を手作りできるので今エミリアは夢中なのだ。
エミール様と医師は、なんだか不安げなマリアンヌと別室に三人で入って行った。
「違う!違う!」
マリアンヌが悲鳴のような声を上げて部屋から飛び出してきた。そのマリアンヌを慌てて追いかけて抱きとめて寝室に連れて行き、なだめていたらマリアンヌが寝息を立て始めた。
居間に戻るとエレナがお医者様とエミール様にお茶を出してくれていた。
「ミラ お母さんどうしたの?」
エミリアが抱きついてきた。私を見上げる目に不安がある。
「大丈夫よ。ちょっと大きな声を出しただけ」
「エミリア お母さんは大丈夫だから、お菓子作り続けましょうよ」
エレナが声をかけるとパッと表情を明るくして、エレナと二人で台所に向かった。エミリアが出て行くのを確認してからエミール様が口を開いた。
「すまない。今後もし王太子殿下のお姿を見てマリアンヌが逆上するといけないと思って殿下の絵姿を見せてこの人は王太子殿下だからと言い含めようとしたら。いきなり叫び出してしまって」
そこには王太子殿下と妃殿下の御婚姻の記念で配られた絵姿があった。懐かしい慕わしい殿下。島ではずっと交わした会話を反芻していたのに今は仲睦まじげに妃殿下と寄り添った絵姿を見てもなんとも思わなかった。
「マリアンヌはあくまで殿下がエミールだと言うんだ。エミリアの父親だと。ここで言うのは見逃せるけれど万が一外で言って死んだ事になってるのに身元がばれたらただではすまない。エミリアの将来も危ない」
私は自分の指先をギュッと握って不安をなだめる。
「どうしたらいいのでしょうか」
それまで黙っていた医師が口を開いた。
「過去のことがかなり錯乱しているようです。王太子殿下に関わる事なので、救護院に収容した方がいいと思うのですが、お子さんもいらっしゃるし、ここで見張りをつけて回復を待つのがいいかと」
「そうですね。隔離をして誰に見られるかわからない。ミラ嬢、お手間ですがこの家でマリアンヌの世話をお願いできますか?お金のことは心配しないで下さい」
エミール様に言われてまだエミール様のそばにいられると嬉しかった。
20
お気に入りに追加
487
あなたにおすすめの小説
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
本当の勝者は正直者
夕鈴
恋愛
侯爵令嬢ナンシーの婚約者は友人の伯爵令嬢に恋をしている。ナンシーが幼馴染の婚約者の恋を応援しても動かない。不毛な恋愛相談に呆れながらも、ナンシーはヘタレな幼馴染の恋を叶えるために動き出す。
幼馴染の恋を応援したい少女が選んだ結末は。
※小説家になろう様にも投稿しています。
周りから見たら明らかに両想いなのに当人同士はどちらも自分の片想いだと思っている夫婦の話
きんのたまご
恋愛
政略結婚が決まった日から私はずっと片想い。
とお互いが思っている夫婦の焦れったい話。
元、両片思いを拗らせた夫婦の話を続編として公開してますのでこちらと併せて宜しくお願いします!
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
【完結】逆行悪役令嬢、ざまぁ(※される方)のために頑張ります!〜皆さん、ヒロインはあちらです!〜
葉桜鹿乃
恋愛
「ニア・ユーリオ伯爵令嬢、君との婚約は破棄する。そして、アリアナ・ヴィンセント子爵令嬢への殺人未遂で捕らえさせてもらう」
グレアム・ミスト侯爵子息からの宣言に、私は死を悟った。
学園の卒業パーティー、私からグレアム様を掠め取ったアリアナ嬢が憎くて、憎くて、憎くて……私は、刃物を持ち込んでしまった。そして、殺人を犯す間際にグレアム様に刃物を叩き落とされた。
私の凶行によって全て無くし、死刑を待つ牢屋の中で、どうしてこうなったのかを考えていたら……そもそも、グレアム様に固執するのがよくなかったのでは無いか?あんな浮気男のどこがいいのか?と、思い至る。
今更気付いた所でどうにもならない、冷たい鉄の板に薄布が敷かれた寝台の上で「やり直せるなら、間違わないのに」そう呟いた瞬間、祖父からもらった形見のネックレスが光を放って……気付けば学園入学時に戻っていた?!
よくわからないけどやり直せるならやり直す!浮気男(共)の本性はわかっている、絶対に邪魔はしない、命あっての物種だ!
だから私、代表して晴の舞台で婚約破棄というざまぁをされます!
さぁ皆さん、ヒロインのアリアナ嬢はあちらです!
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。
※小説家になろう様でも別名義で連載しています。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
とある令嬢の婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある街で、王子と令嬢が出会いある約束を交わしました。
彼女と王子は仲睦まじく過ごしていましたが・・・
学園に通う事になると、王子は彼女をほって他の女にかかりきりになってしまいました。
その女はなんと彼女の妹でした。
これはそんな彼女が婚約破棄から幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる