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第三章 今世
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しおりを挟む疑問には思ったが、口には出さない。何か私が知らない理由があるのだろう。
そこにマークスが控え室のある扉から入ってきて、我が家の侍女が控室に入った事を報告してくれました。
「今日から登校後はこちらで控えるように伝えてくれました?」
シャルロット嬢が聞くと
「はい、ご主人様が生徒会役員になられたので、こちらでお昼を過ごされる事を伝えてあります」
とテキパキとマークスが返事をした。
「生徒会役員は授業の空き時間もここにいる事が多いから、その方がいいのよ。私達も絡まれるのが減って助かるわ。だから、マルティナ様は何がなんでも生徒会に入りたいのよ」
なるほど。いろんな思惑はあれども、アピールしたいのなら近くにいた方が有利だ。
「シャル、大丈夫か」
シャルロット嬢と話していたら、いつのまにかルドルフ様とジョエル様が入室していた。
シャルロット嬢に呼びかけたのはルドルフ様の方だった。デビュタントのダンスで私に掛けた声と違って、シャルロット嬢にかける声は優しげで親しさが籠もっていた。
私は傷ついたりしない。今世ではコンラート様は私を必要としないほど幸せなのでしょう。だから前世は思い出さないし、思い出す必要がない。デビュタントの後に目が溶けるほど泣いたはずなのに、じんと涙の膜が瞳に張らないように努力した。だって未練がましい。引き際が肝心だ。
「大丈夫かって、なんのこと?マルティナ様の奇行は昔から。びっくりしたりしないもの。それよりどうやって追いやったの?」
シャルロット嬢が振り返って返事をした。令嬢にしてはぞんざいな口の利き方でそれだけ親しいのだろうなと思えた。ルドルフ様の代わりにジョエル様がシャルロット嬢に近づいて来た。
「追いやったわけでは無いが、さすがに採点に疑いを挟むのは王族に対する不敬だと付いてきた侍女や侍従、護衛が悟ったのだろう。サムスン家の侍従が後ろからマルティナ嬢に注意したら逆ギレして、扇で侍従を叩いて癇癪を起こし、侍女と護衛がなだめながら連れ去ったというのが正しいか」
「まあ、朝も侍女の頬を扇ではったのに暴力的だこと」
呆れたように声を上げるシャルロット嬢が両手を上に挙げた。私はいくら筆頭公爵家とはいえ侍女に侍従に護衛も付けているのはまるで王族のようだと思った。
扉が開かれて人影が差した。
「そろそろ揃った?」
違う人が扉を開けながら声を掛けてきた。
「グスタフ」
ジョエル様がその男性に声を掛けた。グスタフと呼ばれた男性は入室してきてルドルフ様ジョエル様の立っている場所に歩いて行ってこちらを振り返った。
「シャルロット嬢は入学前からよく差し入れにきていたから、今更だけれども、ここで自己紹介をしておこう」
なるほど、シャルロット嬢が新入生とは思えないほど、いろいろ知っていたのは、理事長の娘だからだけで無くそういう事情もあったわけか。私が納得していると私とシャルロット嬢が座っているソファの前にグスタフとよばれた男性が立った。
「私は去年、会長を務めたグスタフ・トレヴェスだ。三年は一年二年が実務をしてくれるので隠居だよ。楽させてもらう予定だ」
と少し茶化した物言いをする。でも私は姉から三年は文官や武官になるための試験準備のために、忙しくなるために生徒会は手助けだけになると聞いている。トレヴェス家と言えば侯爵家だったはず。
「今年は特に会長と副会長が有能だから楽ができると喜んでいたら、その上、久しぶりの女性役員が二人もだ。男だけのむさ苦しいところに華が来てくれてうれしいよ」
そんなことを言うグスタフにシャルロット嬢が言った。
「華なんて失礼だわ。こちらのリーゼロッテ様は首席で入学されたのよ。そのへんの男性にひけは取らないわ」
圧の強いシャルロット嬢の言い分にちょっとたじたじとした風だったが
「女性を華に例えて失礼したよ。今年の女性は即戦力になりそうでうれしいよ」
そう、にこやかに切り返すジョエル様を見て、シャルロット嬢の耳が少し赤いような気がした。
「わかって頂いてうれしいわ。一年生のあと一人はまだかしらね」
話を変えるタイミングで扉がノックされた。
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