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第三章 今世
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しおりを挟む「生徒会室の場所はお分かりですか?バース公爵令嬢」
私が尋ねると、可愛らしくシャルロット嬢は微笑んだ。
「生徒会室の場所は兄に聞いてあります。どうぞ、シャルロットとお呼びください。私もリーゼロッテとお呼びさせていただきます。今後三年間生徒会でご一緒させていただきますもの。女性は残念ながら二人だけ。そのうちシャルと呼んでいただきたいわ」
その微笑みは親しげで、本心からその言葉が紡がれてると信じられるものだった。
「ありがとうございます。では、三年生にも女性はいらっしゃらない?」
「そうですの。この国の貴族には男尊女卑の思想が根付いていまして、女性に高度教育は不要と思っているようですわ」
我が家は三姉妹で女しかいないから、熱心に教育を受けさせてくれたのだろうか。私の疑問が顔に出たのかシャルロット嬢はクスリと笑って言った。
「まあ、そんな家ばかりではありませんけれど。あなたのお姉様方は才女で有名でしたしね」
私はコンラート様が平民だったら、私が養うつもりで目一杯教養を詰め込んだから例外だけれど。残念ながら、猛勉強は何の意味も成さなかった。それどころか私を思い出してももらえないコンラート様に近づくことになってしまった。できるなら、二度とあの人の視界に入りたくなかった。未練が出たりしたら、目も当てられない不幸が待っているだけ。
そんなふうに思って、シャルロット嬢と歩いていると、廊下を曲がった先の扉の前で誰かが大きな声を出していた。聞き覚えのある声だけれど……
「ですから!筆頭公爵家の御令嬢のマルティナ様が生徒会に入れないなんておかしいのです!」
「そうです!誰かの陰謀ですわ!」
朝もクラス分けの前でやってたことをここでもやってるのか。すごい根性だこと。当事者のマルティナ嬢は扇で顔を半分隠して黙って立っている。
「マルティナ様が生徒会にいらっしゃらないとルドルフ殿下がお怒りになるのよ」
「そうよ。お二人は幼い頃から愛を育んでこられて来たの。あなたに邪魔をする権利はないわ!」
「だいたいあなた、名乗りもしないで私達の入室を拒むなんて!生意気よ!名乗りなさい!」
離れて茶番劇をシャルロット嬢と見ていたが、シャルロット嬢が私にここで待っていてと声をかけた。私が頷くと騒いでいるところにシャルロット嬢が歩み寄った。
「淑女が大声を出すなんてはしたない。ヒュッケ侯爵家とエーベル伯爵家の教育はどうなっていらっしゃるの」
そう声をかけられて、エレーヌ嬢とアンヌ嬢が憤怒の目で声を掛けたシャルロット嬢を睨みつけた。だが、誰が声を掛けたかわかった途端に顔色が変わった。権威に弱いタイプなのか。
「今年、生徒会役員に任命されるのは上位三人まで。マルティナ様のお名前はなかったようですが。それなのに何故ここでマルティナ様の事を本人じゃないあなた達が騒いでいるの」
「も、申し訳ありません。どうしてもマルティナ様が生徒会でルドルフ殿下とご一緒されたいと言われるので」
「そ、それにクラス分けにしろ、マルティナ様が最下のクラスだなんて信じられません」
シャルロット嬢はふわふわした栗色の巻毛を無造作に後ろに跳ねさせた。
「まあ、あなた方は学院の採点にご不満なわけね。つまりそれは王家に不満を持つということなのだけれどわかっておっしゃってるの」
「そ、そんなつもりはございません。誰かが意図的にマルティナ様を蔑めたんだと思って」
「毎年新入生のクラス分けには苦情が来るわ。採点は公明正大になるように複数の人間が確認して、最後は父が確認しているの。あなた方は私の父がマルティナ様を蔑めたと言いたいの」
シャルロット嬢の父は先代国王の第三王子で臣下に降りた方だ。その方を疑うとは不敬だけでは済まない。二人は高位貴族の令嬢らしいが表沙汰になれば、退学もあり得る。
二人は自分がなにを言っていたか、やっとわかったらしく『申し訳ありません』とシャルロット嬢に頭を下げた。
「私に言ってくださっても仕方ないわ。入学式前にも騒いでいらっしゃったとも聞いたし、先生方から理事長である私の父に報告が行くと思う。この場でのことも報告させていただくわ」
「お見逃し下さいませんか」
二人はオロオロとシャルロット嬢に縋り付かんばかりにしているのに、当事者マルティナ嬢は知らん振りで視線は私の背後に向けていた。
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