改稿版 婚約破棄の代償

ぐう

文字の大きさ
上 下
17 / 48
第一章 前世

17

しおりを挟む



「そんな風に見たのなら、成功したという事だな」

 コンラートが答えずにはぐらかした事がギルバートの感に触った。

「自分のした事で周りにどのぐらい迷惑をかけたかわかっているのですか」

 コンラートは静かに目を閉じた。そして口を開いた。

「アネットは生きている……はずだ。元気にしているんだよな」

 お返しに黙って答えないギルバート。

「教えてはもらえないのか」

「教えて欲しいのですか」

「無事に生きていて幸せになっていて欲しい。それだけが望みだ」

「図々しくもアネットを気にかけるのは何故ですか」

 ギルバートの問いに今度はコンラートが黙して語らない。頑ななコンラートに呆れてギルバートは話題を変えた。

「あなたはミリアムの行く末を聞かないのですね」

「私の魔力を無防備に浴びたのだ無事では済むまい」

 先程の夢の中のミリアムをコンラートは思い出す。実際はあんな風になる前に命の炎は消えただろう。

「処刑されたのか」

「マーカスとライムントが盛られた薬を我が国に持ち込んだミリアムの父親は、二人の家の嘆願で密かに処刑され、調達先の遠国には取り締まるように、圧力をかけました。我が国に逆らう事はないと思いますが。あの女は国王陛下の前で腕輪を付け、あなたの魔力を送り込まれてすぐに昏倒しました」

「ああ、それは覚えている」

「あの女が中々の器を持っているから、あの女を使うと国王陛下に言われたのに、あの女が早々と昏倒した理由を調べましたよ」

 コンラートは自分のした事に言及されて眉を顰めた。


「あの女の素性を調べました。父親は遠国の生まれだから器の可能性はない。母親の方は捨て子だったが、実は高位貴族の認められてない庶子だった。その娘のミリアムは高位貴族達の正当な婚姻の子ほどではないが器はあったのですね。器があってもあの女は早々に昏倒した理由は……」

 ギルバートは言葉を切ってコンラートを見たが、コンラートは何も言わない。

「あなたがアネットは生きていると確信しているのは、アネットに魔力を渡していなかったからですね」

 コンラートはそうだとも、違うとも言わない。

「あなたはずっと前から準備していた。アネットを救うために」

 ギルバートはため息をついた。

「それでもあなたがアネットに悲しい思いさせた事は我らは許していません。他にやりようはなかったのですか」

 ギルバートに淡々と言われて、クッションに埋もれて座っていたコンラートはその姿勢すら辛くて、ずりずりとクッションから外れながら聞いた。


「………マーカスとライムントの婚約者だったノーラとライラはどうしている?」

「二人とも家格にあった家に嫁いでいますよ」

「ルーカスとライムントの不実を許せなかったのか?」

「コンラート様、あの二人は高位貴族です。色仕掛けで近づいて来る女には慣れていたでしょう。なのにあの女から渡されたものを食した。どうしてだと思います?」

「ーーーーあの女の魅力に負けたということかーーー」

「私は学園でも王宮でも会っていませんが、貴族の令嬢と違った、女を全面に出した色気に溢れている女だったそうですね」

「色気か。そうだな」

「その色気に負けて、普通なら用心するところを、つい食べて洗脳された、そんな男は婚約者としては、許せないということですよ。まあ、許せても二人とも廃人ですから、どうしようもないのですが。公式にはあなたもあの女の魅力に負けて、正統な婚約者を蔑ろにした男達の一人と発表されています」

「そうか。では、ドミニクが立太子したか……」

「はい。イザベラ妃と婚姻されて、王子もお生まれになっています」

「よかった。あの二人なら大丈夫……」

 コンラートはより一層身体がずり下がっていった。ギルバートは立ち上がり、クッションを取り除いて、枕を当ててやりコンラートを寝かせた。

「お辛いようでしたら、また日を改めますが……」

「……いや、もう長くは生きられないだろう。ギル……ギーセヘルト公爵には聞いておいてもらいたい」

 その言葉を聞いて、ギルバート仕方ないなというように頭を振った。
 そのギルバートを見て、強い言葉で責めているのに、こちらの体調を気遣うギルバートの優しさに胸の中が温かくなった。

「……コンラート様、それではお続け下さい」

「ギーセヘルト公爵、アネットが十歳の誓い以来、十二、十三と歳を経る事に、体調不良が続いて、寝込むことが多くなった事を覚えているか?」

「ーーそういえば、そのようだったような」

「私は自分の魔力がアネットの器に、流れ込む魔力が少しずつ多くなった事に気がついたのだ。もしかしたら、アネットの体調不良は私の魔力が増えたせいではないかと。それで調べた。過去の王族とその妃に付いて」

「それは、どのような……」



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...