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第一章 前世
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しおりを挟む「そんな風に見たのなら、成功したという事だな」
コンラートが答えずにはぐらかした事がギルバートの感に触った。
「自分のした事で周りにどのぐらい迷惑をかけたかわかっているのですか」
コンラートは静かに目を閉じた。そして口を開いた。
「アネットは生きている……はずだ。元気にしているんだよな」
お返しに黙って答えないギルバート。
「教えてはもらえないのか」
「教えて欲しいのですか」
「無事に生きていて幸せになっていて欲しい。それだけが望みだ」
「図々しくもアネットを気にかけるのは何故ですか」
ギルバートの問いに今度はコンラートが黙して語らない。頑ななコンラートに呆れてギルバートは話題を変えた。
「あなたはミリアムの行く末を聞かないのですね」
「私の魔力を無防備に浴びたのだ無事では済むまい」
先程の夢の中のミリアムをコンラートは思い出す。実際はあんな風になる前に命の炎は消えただろう。
「処刑されたのか」
「マーカスとライムントが盛られた薬を我が国に持ち込んだミリアムの父親は、二人の家の嘆願で密かに処刑され、調達先の遠国には取り締まるように、圧力をかけました。我が国に逆らう事はないと思いますが。あの女は国王陛下の前で腕輪を付け、あなたの魔力を送り込まれてすぐに昏倒しました」
「ああ、それは覚えている」
「あの女が中々の器を持っているから、あの女を使うと国王陛下に言われたのに、あの女が早々と昏倒した理由を調べましたよ」
コンラートは自分のした事に言及されて眉を顰めた。
「あの女の素性を調べました。父親は遠国の生まれだから器の可能性はない。母親の方は捨て子だったが、実は高位貴族の認められてない庶子だった。その娘のミリアムは高位貴族達の正当な婚姻の子ほどではないが器はあったのですね。器があってもあの女は早々に昏倒した理由は……」
ギルバートは言葉を切ってコンラートを見たが、コンラートは何も言わない。
「あなたがアネットは生きていると確信しているのは、アネットに魔力を渡していなかったからですね」
コンラートはそうだとも、違うとも言わない。
「あなたはずっと前から準備していた。アネットを救うために」
ギルバートはため息をついた。
「それでもあなたがアネットに悲しい思いさせた事は我らは許していません。他にやりようはなかったのですか」
ギルバートに淡々と言われて、クッションに埋もれて座っていたコンラートはその姿勢すら辛くて、ずりずりとクッションから外れながら聞いた。
「………マーカスとライムントの婚約者だったノーラとライラはどうしている?」
「二人とも家格にあった家に嫁いでいますよ」
「ルーカスとライムントの不実を許せなかったのか?」
「コンラート様、あの二人は高位貴族です。色仕掛けで近づいて来る女には慣れていたでしょう。なのにあの女から渡されたものを食した。どうしてだと思います?」
「ーーーーあの女の魅力に負けたということかーーー」
「私は学園でも王宮でも会っていませんが、貴族の令嬢と違った、女を全面に出した色気に溢れている女だったそうですね」
「色気か。そうだな」
「その色気に負けて、普通なら用心するところを、つい食べて洗脳された、そんな男は婚約者としては、許せないということですよ。まあ、許せても二人とも廃人ですから、どうしようもないのですが。公式にはあなたもあの女の魅力に負けて、正統な婚約者を蔑ろにした男達の一人と発表されています」
「そうか。では、ドミニクが立太子したか……」
「はい。イザベラ妃と婚姻されて、王子もお生まれになっています」
「よかった。あの二人なら大丈夫……」
コンラートはより一層身体がずり下がっていった。ギルバートは立ち上がり、クッションを取り除いて、枕を当ててやりコンラートを寝かせた。
「お辛いようでしたら、また日を改めますが……」
「……いや、もう長くは生きられないだろう。ギル……ギーセヘルト公爵には聞いておいてもらいたい」
その言葉を聞いて、ギルバート仕方ないなというように頭を振った。
そのギルバートを見て、強い言葉で責めているのに、こちらの体調を気遣うギルバートの優しさに胸の中が温かくなった。
「……コンラート様、それではお続け下さい」
「ギーセヘルト公爵、アネットが十歳の誓い以来、十二、十三と歳を経る事に、体調不良が続いて、寝込むことが多くなった事を覚えているか?」
「ーーそういえば、そのようだったような」
「私は自分の魔力がアネットの器に、流れ込む魔力が少しずつ多くなった事に気がついたのだ。もしかしたら、アネットの体調不良は私の魔力が増えたせいではないかと。それで調べた。過去の王族とその妃に付いて」
「それは、どのような……」
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