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第一章 前世
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しおりを挟むコンラートはギルバートの叫びに自分が巻き込んで、被害を与えた人々のことを考えると、何も言わずに自分が居なくなれば、それでいいという理論は成り立たないのだなと思った。コンラートは切実に自分の甘さを思い知った。ギルバートに向き合おうと、上半身を起こそうとするが、筋肉が衰えて、起き上がる力がない。腕を突いて、身体をひねっていると、ギルバートが近づいて来て、コンラートの身体を抱き起こし、身体の後ろにクッションをいくつか当てて、身体が倒れないようにしてくれた。
「ーーー軽くなりましたねーーー」
ギルバートがぽつりと呟いた。
「これでもローゼンベルガーが保全魔術で、衰えて死なないようにしてくれていたようだ」
ギルバートはベッドサイドの横の椅子に座り直した。
「コンラート様は目覚めた時に、自分のした事を思い出せずに、アネットのことをしきりに気になさっていたとも聞きました。昏倒する前はアネットのことなど、なんとも思っていないようにお見受けしましが」
ギルバートの瞳の中に、静かな怒りの色があるのに気が付いたコンラートは、ごまかせないと切実に思った。
「王家に生まれた者が大きな魔力を持ち、その魔力で早死にしないように、高位貴族令嬢の器で救うシステムについてどこまで知っている?」
「結界魔術陣の動力は直系王族の魔力であること。魔力が多いものは早死してしまうので、建国時、英雄王を王として即位させた魔術士達の子孫から、器を持つ女性が多く発見されたので、それを妻として王族の寿命を伸ばせるように魔道具を作った。それは魔力を国に捧げる王族に対する我らの献身であると公爵位を引き継ぐ時に父から聞きました。これは英雄王と共に国を興した魔術士の子孫の高位貴族の当主しか知らないことだと」
その言葉を聞いてコンラートはギルバートを真っ直ぐに見つめた。
「ーーー魔力の多い者を王にさせて、その魔力を国のために使うーーーーそこまではいい。国を安全にするのは王族の義務だから。だが、動力源を長持ちさせるために娘を器として差し出す事を婚姻と言う綺麗事で隠したんだ。酷い話だと思わないか?」
「高位貴族の子女なら政略結婚など覚悟の上でしょう」
コンラートはギルバートの醒めた物言いに驚いた。
「ギル……ギーセヘルト公爵は政略結婚にいい感情を持っていないと思っていた」
「私ども高位貴族の子女は王族の魔力を保持させるための義務があります。大きな魔力を受け止める器を持つ娘を作るためには、平民や下位貴族とは婚姻はできません。無理矢理婚姻しても、器がないか器が小さい子しか生まれません。また血が近すぎてもいけない。そのため計算しての政略結婚しかないのですよ」
ギルバートのその言葉にコンラートも言葉に詰まる。
「ーーー王族や貴族の一夫一妻制度は魔力と器の関係から来ている。過去は王族に愛妾など許されていなかった。器として一生を捧げる王妃に対する敬意としてだ。それなのに父上は学園で恋仲になった男爵令嬢を愛妾とした。母上と言う婚約者が学園にいるのにだ。あの人のしたことを私は真似ただけだ」
コンラートの言葉を聞いて、ギルバートはぎゅっと手を握った。
「それでも私達は結界陣を守っていかないといけません。この国が平和なのは、魔物の侵入がないからです。魔物の侵略が無いことでこの国は富んでいる。他国からの侵略もはねのけることができる。最近は平民が経済力をつけて、貴族を凌駕しようとしている傾向がある。だが王族や貴族がいなくなれば、魔力のない者達だけでは結界陣は維持できない。魔物はどこからでも侵入してくるでしょう。そうすれば他国と同じになる。今まで平和だった分、他国よりも、もっと警戒が緩んでいるから、地獄絵図でしょう。それでも我々は王族と貴族のおかげで平和があると、声高に言うわけにはいかない。平民達は国を守っている者達の事情など我関せずでしょう。だからフロイント伯爵の婿のように勘違いするものが出て、ミリアムのような女も出てくる」
「ーーーああーーー」
「殿下、殿下は真実あの女を愛しておられたのですか?」
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