改稿版 婚約破棄の代償

ぐう

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第一章 前世

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 ミリアムは次の標的である公爵令息ライムントの攻略にかかった。
 この男は婚約者とは、マーカスによると仲は悪くないらしい。身体を使って近づいても、なかなか言う通りにならない。
 最終手段でマーカスに薬の入った飲み物をライムントに飲ませるように指示をした。この頃にはすでにマーカスはミリアムの言いなりだったのだ。
 そしてライムントもマーカスの時より濃度の濃いものを与えていたので、早い時期にミリアムに落ちてきた。

 身体を与えるとあっという間に自分の虜になる二人を見て、コンラート王子を攻略するのは簡単だと思い込んだ。マーカスとライムントにコンラートに紹介してほしいと強請った。普通の状態なら何故と疑問に思うだろうが、二人ともすでに正気ではないので、唯唯諾々と従った。


「殿下、よろしいでしょうか」

 コンラートが一人でテラスに座っている時に声をかけさせた。最近婚約者は学園で見かけないので、丁度いいとミリアムは思った。

「フロイント伯爵令嬢のミリアムです。殿下に紹介してほしいと言うので、連れて来ました」

 コンラートは端麗な眉を顰めた。


「君は確か、最近編入してきた令嬢だな」

 本当なら初対面のミリアムが王族に声をかけることはできない。だが、正気ではない二人の側近候補には常識はすでにない。

「ミリアムと言います。マーカスやライムントに仲良くしてもらってます」

 そう身体でねとにっこり笑って、コンラートのそばに駆け寄った。
 コンラートはそれを咎め立てもせずに、じっとミリアムを見つめた。その視線はどこか熱のある物だったので、ミリアムはコンラートには、一服盛らなくてもミリアムの魅力に陥落しかけているのだと思い込んだ。
 王子様だって普通の男、年頃の男の性欲には敵わないのだと。

 だが、ミリアムはじっと観察するコンラートの熱のある視線の意味には気が付かなかった。
 それが自分の未来を左右するものだと考えもしなかった。


 それからの日々はミリアムにとって自分の野望通りだった。
 コンラートは思ったより嫉妬深く、ルーカスとライムントとの仲を離された。二人は禁断症状が出て学園に出て来れないようになった。と言っても、禁断症状であることを知ってるのは、ミリアムとその父親だけ。
 コンラートさえ手に入れば、あの二人はもういらないので、ミリアムはあの二人の禁断症状など気にもかけなかった。

 学園にはコンラートの婚約者はずっと通って来ていない。婚約者に取って代わろうとしているミリアムにとって気にかかることだ。

「コンラート様ぁ 婚約者のアネットでしたっけ。どうしたのですか。学園に来てないですよね。……ひょっとして私のせい?」

 と上目遣いで甘えて言った。

「……ギーセヘルト公爵令嬢だ」

「え?なあに?」

「何故彼女を呼び捨てにしてる。彼女とは会ったこともなければ、親しくもないだろう。呼び捨ては失礼だ」

 きつく詰られて、意外だった。まだ婚約者に思い入れがあるのかと。これはコンラートにも薬を盛らないといけない。自分の言うことに盲信的になってくれないと、婚約破棄は難しいかもしれない。そう考えて、薬を混ぜたクッキーやケーキを用意した。

 薬を混ぜた菓子を甘えてしなだれかかり、無理矢理口に運んで食べさせた。一度食べてしまえば、中毒症状でもっともっとと求めてくるはずだ。……だがコンラートは求めて来ない。そのせいか身体の関係になれないのには焦った。マーカスもライムントも簡単に手を出して来たのに、コンラートはキスもして来ない。学園ではずっとそばに引きつけているから、愛人にするつもりかと噂になっている。ミリアムはその噂を耳にして焦った。愛人では母親と一緒だ。なんとしても王子妃になってみせると決心した。

 コンラートはミリアムの気持ちに気が付いているのかどうか、ミリアムにはわからなかったが、学園ではずっと一緒にいた。
 そしてある日一緒に来て欲しいと学園の外に誘われた。

「どこ行くんですかぁ」

「魔術庁だよ。きみの測定に行かないと」

 ミリアムは自分に魔力が無いのを知っている。
 学園に編入前につけられた家庭教師が、ミリアムの母親が貴族の庶子かもしれないなら、魔力があるかもしれない。魔力があれば魔術士への道もあるからと簡単に魔力測定をしたのだ。
 結果、かけらも無かった。魔力がないと王子妃になれないのだろうかとミリアムは焦った。

「ま、魔力が無いと、コンラートのそばにいられないの?」

 瞳を潤ませて、胸の前で手を組んだ。コンラートはそれを観て、にこりと笑って言った。

「いや、魔力の有無は関係無いよ。私の母は魔力は持っていない」

 王妃が魔力なしなら、大丈夫だとホッとしたが、それなら魔術庁には何しに行くのだろう。それでもコンラートに気に入られるためには、行かないと言う選択肢はない。行くしかないのだ。

 魔術庁に行って出てきたのは、ローブを深く被った年のよくわからない人間だった。

「殿下、これは何に使うのですか」

「一時凌ぎの器にだ。使えるか」

「おや、殿下も器は道具だとわかってくださったようですね」

「……ああ……」

「具合がかなりお悪いようですので、一時凌ぎも必要でしょう」

 なんの話をしているのか、ミリアムにはさっぱりわからない。でもコンラートに微笑まれ『私のために頑張ってくれ』と言われると逆らえない。ミリアムは野望を持って近づいたが、コンラートに本当に惚れたのか。嫌われたくない。そばにいたい。それだけだった。
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