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「王太子殿下に先ほどの事柄を伝えられていないのですか?」

「普通なら成人する時に伝える。だが、テオバルトは先祖返りで誰が見ても番を求める本能が強いことはわかる。だからあえて伝えてない。諦めて婚姻を結んだ時に伝えるつもりだった。それが良かったか悪かったのか……」

 国王は窓の向こうのもっと遠くを見るように目を凝らす。

「いかな魔道具でも時は戻せない。国王陛下におかれましては、王妃陛下に誠心誠意お言葉を尽くすしかないと我らは思います。例え、言い訳でしかなくても、それを判断するのは王妃陛下なのですから」


 淡々とリヒャルトが不敬を顧みず、言葉を紡ぐ。その落ち着いた物言いをする臣下の顔を一瞥して、国王は立ち上がった。


「その通りだな。してしまったことはもう戻せない。捨てられたくないなどと、すがるより、これから二人でどうしたいか話し合いをしてくる」

「お待ちください。先程の王族は魔力に関係なく、番を求める気持ちが強い件、王太子殿下に告げてもよろしいですか」

 リヒャルトが立ち上がり、出ていこうとする国王の背に言葉をかけた。

 国王は振り返り、リヒャルトを見て

「今後番をわからなくする魔道具をどうやって付けさせていくか、話し合うのに必要だろう。許可する」

 そうリヒャルトに告げた。
 国王はドアの外に立つ近衛達にドアを開けて、『行くぞ』と声をかけて、近衛を引き連れて壁から消えて行った。

「ーーーー王妃陛下との仲はどうなるんでしょうね」

 ニックがポツリと国王達が去って行った壁を見つめながら言うと

「それは神のみぞ知るーーーだろう。」

 とリヒャルトが答えた。


「う、うーん、待ってくれ!」

 長椅子で寝ていた王太子が苦しげにうめいた拍子に身をよじり、掛けられていた毛布が落ちた。


「エレオノーラ王女に捨てられた夢でもみてるんでしょうかね」

 ニックが王太子をチラリと見て言ったが、リヒャルトはその言葉には反応せず、落ちた毛布を王太子に着せてやった。


「僕は不安に思ってることがあるのだが……」

 ニックがそう言うと、さっと、リヒャルトがニックと二人だけ覆うように防音魔法をかけた。


 
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