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しおりを挟む「うっ」
医務室のような簡易ベッドで寝ていた国王が声を上げた。
「そろそろお目覚めの時間じゃないか」
ニックがリヒャルトにそう言葉をかけて、国王に近づいた。
「陛下、ご気分はいかがですか」
「ーーーーここは?」
「魔術師塔の私の研究室です。番を求める本能を抑え込む魔道具を付けた事を覚えていらっしゃいますか」
「ーーーーそうだったな」
国王はそう言って、己の耳朶を指でなぞった。
「これは取れないのか」
「耳を削ぎ落とさない限り外せません」
「ーーーーそうか」
そう言って国王は上半身を起こして、ベッドから足を下ろして座った。
「ご気分はいかがですか。吐き気がするとか、頭痛がするとか」
ニックが重ねて聞いた。
「いや、寝起きで思考がまとまらないが、具合の悪いところは無い……と思う」
掠れたその声を聞いて、リヒャルトは水差しから水をカップに注ぎ、一口自分で飲んで見せた。
「竜人には毒や麻薬などは効かないのですが、念のためです」
と言いながら国王にカップを手渡した。
国王はカップを受け取って、勢いよく飲み干して、お代わりを要求した。
今度はニックが水差しの水を国王の持つカップに注ぎながら聞いた。
「このようなことをお伺いするのは不敬かもしれませんが、魔術士は何ものにも縛られないと言うことで、魔術士としてうかがいます」
「なんでも聞くがいい」
国王の答えを聞いてニックが尋ねた。
「元々陛下は直系王族としては魔力がそこまでお強くないから、思春期になっても番を求める焦燥感は少ないはずです。先程聞いた話は本当なのでしょうか」
国王はカップをリヒャルトに返した。
「これは王族内で秘匿された事柄なのだが、今更だから話してしまおう。ーーーーー代々の国王で番が見つかったものはごくわずか。王族の竜人として生まれてしまうと、魔力の多い少ないにかかわらず、番を求める気持ちは臣下のものより強いのだ。見つからないことの多い番に振り回されたくないのに、番を求める本能は強い。アンバランスなのが王族なのだ。それでも王族は後継者が必要で、番が見つからなければ、番でない女性を娶らないといけない……」
国王はまだ意識が戻らない自分の息子の寝ている長椅子によろよろと近づいて、向かい側の1人掛けの椅子にドスンと座った。
「まだご気分がすぐれないのなら無理されなくとも」
ニックが無理強いしているリヒャルトを宥めて、国王に進言した。
「大丈夫だ。代々の国王がして来た罪深さを先程の王妃の態度を目にして実感した。先祖返りの王子を産んでくれただけでなく、こんな情け無い伴侶をあきらめないでいてくれたなどと。もっと早く魔術士に相談していれば王妃との仲もこじれないですんだのだな」」
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