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「マディ!待ってくれ!」

 王妃は国王の言葉など耳に入ってる様子はなかった。ふらふらと扉に近づき、扉を開ける様に侍従に目をやった。普段なら目で合図されなくとも、優秀な侍従は扉を開けるだろうが、今はこの国の主が必死に止める言葉を発している時だ。どうするべきか、王妃と後ろから来る国王を見比べて躊躇っていた。

 そんな侍従に焦れて王妃が扉に手をかけた時に国王が王妃を抱きとめた。

「マデリーン、頼むから話を聞いてくれ」

 青い顔をして、ふらふらとしているが、意識はしっかりしているのか、抱きとめられた国王の腕をぐいっと押しやって、睨みつけた。

「ーーーー聞くことなんか何もないわ。今まで何も言ってくれないことが全て。そう、全てが今更なのよ。あなたがどこかに囲ってる妾とお幸せにね」

「母上、父上にはそんな相手はいない」

 突然言葉を挟んできた己の息子の言葉に、国王は無視しても、王妃は思わず息子を見た。

「どう言うこと?」

「言葉通りだ。父上には妾はいないし、そう言う対象の女を近くに置いてない」

 その言葉に、王妃は少し考えた様だけれど、今更だと思っているのか

「どうでも良いわ」

 と言ってまた国王の腕の中から脱しようと腕をおしやった。

「母上、私にも父上にはそう言う対象がいない、しかも先祖返りでもないから番への衝動も薄い父上が母上と距離を取る理由がわかりません。それで私が番を求める本能を抑える魔道具を装着する報告と共に父上から話を聞きたいと来てもらっているのです。三行半を叩きつける前に、話だけさせて下さい」

 王太子の言葉に、いつの間にか大人になった息子を見上げてから、くるっと方向を変えて元の椅子に行き座った。国王はどうするかと見ていたら、王妃の後を追い隣に座った。

 その二人が座ったのを確認してから、王太子はおもむろに口を開いた。

「さあ、父上、いやさ、国王陛下、私が言えることでは無いが、竜人の私達の将来を変える魔道具ができた今を機会にきっちりと話をしましょう」

 ふーん、王太子が番を求める本能を抑える魔道具を付けるという意思は本物の様ね。絆されているわけではないけれど、あんなに番、番と騒いでいたのにどういうことなのかしら。納得出来ないわ。
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