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しおりを挟む「弱小国の一王女でしかありませんが、王太子殿下が対等にとおっしゃられたので、はっきり言わせてもらいます!」
と王太子を指さす。ものすごく不敬よ。弱小国でキルンベルガー王国の軍事力の傘の下にいる一王女がしていいことじゃないわ。
さすがにアーダルベルトが何か言いかけたが、王太子が手のひらを開いて、アーダルベルトに向けた。
「よい。私が対等にと言ったのだ。責は全て私にある。黙って聞くのだ」
王太子がそう低く言うと緊張が走った。空気がピリピリするのだ。私は、ああ、この人はやはり戦場で指揮をする人なんだなと思った。短く言うだけで滲み出る威厳があるのだ。密かに見直した。ちょっとだけだけどね。そうちょっとだけ。
私はこの空気に飲まれまいと、胸を逸らして言葉を続けた。逸らしてもたいした嵩はないのだけれどね。
「王太子殿下のなされた事を謝罪されたからと言って私個人は許せません。国の現状から言って、弱小国は謝罪を唯々諾々と受け入れるべきとは思っていますが、王太子殿下のせいで私は婚期を逃しました。小さい国なので王女が降嫁できる年齢の高位貴族の令息はいません。このままだと修道院に入るか国王になる一の兄の情けに縋って、王宮の片隅で暮らすしかありません!」
そこまで言ってジロリと睨みつけてやった。
「だ、だから、このまま婚約者でいてくれて、嫁いで来てくれたらいいの……」
王太子が言い出すので、言葉を被せてやった。
「だからとはなんですか。ずっと絵姿さえ拒否していた番至上主義の言う事を信じろと?」
王太子はうっと言葉に詰まった。それでもゆっくりと言葉を紡いだ。その真剣な様子にさすがの私も言葉を挟むことはできなかった。
「たしかにずっと番を見つけたい。番しかいらないと思っていた。先祖返りの本能だから仕方ないのだと、内心驕っていたのだろう。だが、エレオノーラ王女に会った時に番じゃないとわかっているのに惹かれたんだ。この気持ちは偽りじゃない」
いきなり王太子が私の前に跪いた。
「今までのことは許せなくて当然だ。でも一から私と関係を作って行って欲しい。婚約者として誠意を尽くすから」
と言って私の手を取って、指先にキスを落とした。なんといっても私は男女の免疫のないお姫様育ち。思わず真っ赤になってしまった私を見て、王太子は嬉しそうに微笑んだ。
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