上 下
57 / 69

57

しおりを挟む



「弱小国の一王女でしかありませんが、王太子殿下が対等にとおっしゃられたので、はっきり言わせてもらいます!」

 と王太子を指さす。ものすごく不敬よ。弱小国でキルンベルガー王国の軍事力の傘の下にいる一王女がしていいことじゃないわ。
 さすがにアーダルベルトが何か言いかけたが、王太子が手のひらを開いて、アーダルベルトに向けた。

「よい。私が対等にと言ったのだ。責は全て私にある。黙って聞くのだ」

 王太子がそう低く言うと緊張が走った。空気がピリピリするのだ。私は、ああ、この人はやはり戦場で指揮をする人なんだなと思った。短く言うだけで滲み出る威厳があるのだ。密かに見直した。ちょっとだけだけどね。そうちょっとだけ。

 私はこの空気に飲まれまいと、胸を逸らして言葉を続けた。逸らしてもたいした嵩はないのだけれどね。

「王太子殿下のなされた事を謝罪されたからと言って私個人は許せません。国の現状から言って、弱小国は謝罪を唯々諾々と受け入れるべきとは思っていますが、王太子殿下のせいで私は婚期を逃しました。小さい国なので王女が降嫁できる年齢の高位貴族の令息はいません。このままだと修道院に入るか国王になる一の兄の情けに縋って、王宮の片隅で暮らすしかありません!」

 そこまで言ってジロリと睨みつけてやった。

「だ、だから、このまま婚約者でいてくれて、嫁いで来てくれたらいいの……」

 王太子が言い出すので、言葉を被せてやった。

「だからとはなんですか。ずっと絵姿さえ拒否していた番至上主義の言う事を信じろと?」

 王太子はうっと言葉に詰まった。それでもゆっくりと言葉を紡いだ。その真剣な様子にさすがの私も言葉を挟むことはできなかった。

「たしかにずっと番を見つけたい。番しかいらないと思っていた。先祖返りの本能だから仕方ないのだと、内心驕っていたのだろう。だが、エレオノーラ王女に会った時に番じゃないとわかっているのに惹かれたんだ。この気持ちは偽りじゃない」

 いきなり王太子が私の前に跪いた。

「今までのことは許せなくて当然だ。でも一から私と関係を作って行って欲しい。婚約者として誠意を尽くすから」

 と言って私の手を取って、指先にキスを落とした。なんといっても私は男女の免疫のないお姫様育ち。思わず真っ赤になってしまった私を見て、王太子は嬉しそうに微笑んだ。
しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

さようなら婚約者。お幸せに

四季
恋愛
絶世の美女とも言われるエリアナ・フェン・クロロヴィレには、ラスクという婚約者がいるのだが……。 ※2021.2.9 執筆

獣人専門弁護士の憂鬱

豆丸
恋愛
獣人と弁護士、よくある番ものの話。  ムーンライト様で日刊総合2位になりました。

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...