上 下
50 / 69

50

しおりを挟む



 早々にその日はベッドに入った。
 朝になって、顔を洗う時に指輪が抜けないか、エレナに試してもらったが、抜けなかった。エレナが全力で引き抜こうとしたので、丁重にお断りした。エレナは力持ちなのだ。指が脱臼してしまうわ。

 今日はなんの約束もないので、朝食後は散歩でもしようかと思っていたところに、侍従が先触れをしにきた。
 ニックの予想通り、リヒャルトからだったが、もう一件あった。昼食を一緒にとりたいと言う王太子からのお誘いだった。

 リヒャルトには是非にも指輪を見てもらって、指輪について説明してもらいたかったが、王太子の方はどうでも良かったので、侍従に断りの手紙を持って帰ってもらった。

 昨日、一目惚れだなんだと言われたが、私としては今更である。たとえ番を求める気持ちが大きくても、逃げ回らずに婚約者として誠意ある対応をしてもらっていたら、向き合うことぐらいはしたかもしれないが、本当に今更なのだ。

 そんなふうに考え込んでいたら、リヒャルトの来訪が告げられた。ニックも来ていた。

「殿下の誘いを断られたそうですね。『どうしてお前は会ってもらえる』とぐちぐちと言っていましたので、今までの態度が悪すぎたからだと言っておきました」

 リヒャルトが会うなり、そう言うので心の中で拍手喝采を送っておいた。

「リヒャルト卿とニック卿のお話の方が私にとって急務ですから」

 と表向きは言っておいた。

「早速ですが、指輪を見せていただけますか」

 と言われたので、手ごと座っている二人の前のテーブルに置いた。

「抜けないのですよね」

 とニックに確認されたので頷いておいた。

 リヒャルトも人差し指を指輪の魔石に置いた。ニックが置いた時より熱い。我慢はできるなと思って見ていたら、魔石から何か文字が浮き上がった。ニックが慌てて紙に写しとっている。

「これはなんと書いてあるのですか」

 誰ともなく聞いてみると、リヒャルトが答えてくれた。

「これは魔術師が使う魔術文字です。組み込まれた内容が書いてあるのです」

「でも、組んだ魔術師と同等かそれ以上の魔力を持ってないと、こうやって浮き上がらないのです」

 写し終わったニックが付け加えた。なるほどニックの魔力では詳細はわからなかったわけだ。

「それでこれは何の魔道具なのですか」

 ソファに座り直した二人の顔を交互に見て聞いてみた。

「これは竜人が番と出会っても、番として認知できない魔道具です」

 ニックがサラリと言った。
 え?どう言う意味なの?この人たちがつけている番不感知のピアスとどう違うのよ。
しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

獣人専門弁護士の憂鬱

豆丸
恋愛
獣人と弁護士、よくある番ものの話。  ムーンライト様で日刊総合2位になりました。

処理中です...