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「番を見つけるのを諦めると言うことか……」

 そう言って黙り込むテオバルト。
 ちょっと待ってよ。私、さっき、こいつに球根じゃない、求婚されたわよね。でも、ここで番を見つけるのを諦めてないって事は、私と結婚しても番が見つかったら、私を捨てるつもりだったと言う事よね。むかつく。ええ、もうそりゃ盛大にむかつくわ。別にテオバルトを好きになったわけじゃないけれど、求婚されたその時点でさえ、私は二番目だったわけだ。これは求婚をお断りする理由になるわよね。

「お断りするわ!」

 いきなりそう叫んで立ち上がった私を、なに言っているんだ空気読めと言う目で、リヒャルトもニックも私を見る。
 わかってるわよ。ここでは大人しくテオバルトの熟考を待つべきだって。
 でも、番不感知の魔道具をテオバルトが選択しても、しなくても、さっき求婚された時点で番一番、私二番だったわけだ。許せるわけないわ。
 テオバルトが私の方を見た。

「なにを断る?」

「だ・か・ら 先程のあなたの求婚よ!なにが一目惚れよ。ここで迷ってると言う事は、まだ番に未練があるという事でしょうよ!なにが一目惚れよ、求婚よ。女を馬鹿にすると痛い目に会うわよ!」

 それだけ叫んで、持っていた扇で思いっきり座っているテオバルトの頭を叩いた。
 『痛い目って物理的か』とリヒャルトがつぶやいていたけれど、知った事じゃない。
 テオバルトは、ぽかんと私を見ていた。この扇は護身用でもある。だから中に薄く金属が仕込んであるのだ。力を込めて叩けば、女の力とは言えかなり痛いはず。なのにテオバルトは平気そうだ。竜人は丈夫なのか。ええい、口惜しい。

 私がむかついているのに、テオバルトはいきなり吹き出した。なによ!衝撃で頭がおかしくなったの?
 テオバルトは立ち上がって、長い腕で私を引き寄せた。

「悪かった。迷ったわけじゃない。今まで番、番と騒いでいた自分は動物だったのかと感慨深かっただけだよ。エレオノーラに一目惚れして、番への本能を消せる魔道具ができたのは、運命だ。エレオノーラ、すぐ結婚しよう!」

 ちょっと!断りもなく抱きつかないでよ!なにが運命よ!調子のいい!
 私はテオバルトの腕を扇でまた叩いた。

「気安く触らないで下さい」

「婚約者同士じゃないか」

 急に愛想良くにこにこと近づいて来る男など信用ならん!と頭から湯気が出そうだと思った時盛大な咳払いが聞こえた。

「えっへん!いい加減にしなさい!殿下!」

 また室内に霜柱が立っていた。



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