35 / 69
35
しおりを挟む名乗ってみた。テオバルトは私の名前を聞けば、ダッシュで逃げるだろうなと思いながら。私は会って話をつけたいと思っていたが、テオバルトはこれまで避け続けていた相手が、思いもかけない場所にいたのだ。だから逃げるだろうと思った訳だ。
でも逃げない。予想は外れてしまったようだ。国を代表として来ている王女としては、ここで外交を忘れるわけにはいかないので、意味不明な微笑みをしてやった。愛想なんか売ってやるものか。私の愛想は高額なんだぞ。意味不明な微笑みを続けていたら、テオバルトの麗しい顔がだんだんと赤くなって来た。小水でも我慢しているのか?厠にはさっさと行けよ。と言ってやりたいが、自己紹介の後はあっちの方が地位が上なので名乗り以外声は掛けられない。
「殿下、顔を赤いですよ。どうなさったのですか。厠は廊下に出て右に回った所ですよ」
ナイス、アシスト!リヒャルトが私の言いたいことを言ってくれた。テイバルトの方が身分が高いが、この二人は主従の仲だし、許されているのだろう。
そう指摘されたテオバルトはさらに顔を赤くして、リヒャルトに向かって大きな声を出した。
「ば!バカ言うな!子供じゃ有るまいし!」
「子供じゃ無いとおっしゃるのでしたら、王女殿下がご挨拶なさったのです。これは外交です。きちんと返礼なさって下さい」
ぐっと詰まったテオバルトはしぶしぶと言う感じでこちらを向いた。
「失礼した。私はテオバルト。この国の王太子だ」
愛想なしか!私は意味不明な微笑みですらもったいなくて、引っ込めてしまった。そしたら慌てたように言葉を重ねてきた。
「王女はなぜ魔術師塔などに?ここに出入りするには許可がいるのだが」
なんだよ。私が無許可で入り込んだとでも言ってんのか、おら!
こいつのせいでだんだん私の言葉使いが壊滅的になって来た。
「殿下、失礼です。婚約者である殿下が王宮を案内しなければいけないのに逃げ回るから、私が代わりに案内しているだけです。それに魔術師の塔には魔術師になるほどの魔力が無ければ出入りできません。王女殿下とお付きは私が招き入れたのです」
そう言われてさすがに決まりが悪かったのだろう。
「そ、それはすまないな。仕事が立て込んでいて面会の時間も取れなかった。許して欲しい」
だれが許すか。いや婚約解消してくれたら許してもいいな。
「王太子殿下、わたくし、お願いがありますの。それをかなえていただけたら、今までのことを水に流してもよろしいですわ」
にっこりと今度は愛想良く微笑みかけてやったら、テオバルトは二~三歩後ろに引き下がって顔を赤くした。
12
お気に入りに追加
1,868
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる