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 その日、午前中の執務が終わってから、リヒャルトが午後は所用で抜けると言う。
 どうしても必要なことは午前中に他の側近と済ませていたので、構わないがクソ真面目なリヒャルトにしては、どこに行くとか何をするとかはっきり言わないのは珍しかった。
 俺が聞いても私用ですからと、のらりくらりと話を逸らす。
 リヒャルトが午後の分ですと、どすんと書類を置いて出て行く姿を見送って、側近のひとりのアーダルベルトに尋ねた。

「リヒャルトに色恋ごとか?」

「そうだとしてもおかしくないでしょうね。リヒャルト卿は魔術師で王太子殿下の側近な上に公爵家の跡取りです。それに……」

 アーダルベルトは最後まで言わずに、口をつぐんだ。

「どうした。最後まで言えよ」

 アーダルベルトはちょっと気まずげだったが横を向いて言った。

「リヒャルト卿は番至上主義でありませんから、結婚しても大事にしてくれるだろうと、貴族令嬢方に大人気です」

 遠回しに嫌味を言われて、それ以上何もいえなかった。わかっている。始祖が異世界渡までしたのは、番が自分の世界で見つからなかったから。それぐらい見つからないものなのだ。竜人の末の我らに番が見つかったと聞くのは年に一人かそのぐらいだ。

 竜人の血が薄いものは、政略結婚や恋愛をして結婚に進める。実は俺はそれを羨ましいと思っているのだ。我ら王族の俺のように身体の奥底から湧き出るどこかに俺の番がいるのではと言う欲求に苦しめられることなく、人生を送れるものたちへの嫉みでもある。

 リヒャルトの置いて行った書類は俺が決済すべきものばかりだったが、集中していたせいか早く終わってしまった。
 最後に魔術師塔から上がってきている申請書に不備が見つかったので、気晴らしを兼ねて自分で行くことにした。
 俺は魔術師では無いが、誰よりも魔力があり、強い魔術を使えるので、魔術師塔への出入りは簡単なのだ。

 魔術師塔に近づき、無詠唱で一階の壁をすり抜ける。ひとりなので穴を開けるまでもなく壁をすり抜けるのだ。
 楽々すり抜けると、目の前に会いたくない女が立っていた。こいつは謹慎処分じゃなかったのか。こいつから何度も何度も婚姻の申込があった。侯爵家風情が王族しかも王太子に婚姻申込するなどあり得ない。しかもこいつは不文律として結婚できない魔術師なのだ。
 ホーフ侯爵が有能な人物だから、目こぼしされていることに気がつかない愚かな小娘だったが、とうとう偽番の魔道具を俺に向けた。今まで王族には効き目のなかった魔道具を改良したものを同僚のニックの研究室から盗み出したと言うじゃないか。
 まあ、それでも俺には効かなかったがな。同僚の研究室から魔道具を盗み、俺に向けるなど謹慎処分などでは甘いと思ったが、ホーフ侯爵の嘆願でホーフ侯爵が見張ると言う条件で謹慎処分になったのだが、なぜここにいるのだ。

 その上、また何か俺に魔道具を向けたじゃないか。これは微弱だが魅了か?お粗末な効果だが俺に向けること自体が罪になる。
 そこに魔術師ニックがこちらに近づいて来た。聞くとリヒャルトが応接室にいると言うではないか。リヒャルト!この女を何とかしろと扉を開けた。

 リヒャルトがアデリナを捕まえている間に誰かの視線を感じた。なんだろうと目を向けたが目を離せない。視線の先で火花が散るようだ。この女は誰なんだ。どうして目を離せないのだ。
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