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「くどい!なんと言われても私はそんな王女おんなと婚姻などしないと言っている!」

 男が大きな音を立て、思いっきり扉を叩きつけた。彼はキルンベルガー王国の王太子だ。キルンベルガー王国の始祖は異世界から番を求めてやって来た竜人である。代々人間と交わるうちに、先祖返りの王族と人間と変わらない王族に分かれて来た。そして、彼ーテオバルト王太子は先祖返りである。竜人と等しくはないが、身体能力が高く、魔力を他の王族より何倍も持ち、魔法の能力もずば抜けている。
 そして、誰もが見惚れる美丈夫であり、王国の女性達の憧れの的である。

 昨年、北の隣国が南下を望み、平和同盟を破り戦争を仕掛けて来た。北の騎馬隊が険しい山脈を越え、北の国境を越えたその瞬間に殲滅された。北の隣国はそのままキルンベルガー側に押し入られ、無条件降伏するしかなくなった。
 その功績はほぼ彼によるものである。彼に従う王太子親衛隊は選りすぐりの能力を持つ者が集められているが、彼無しではそこまでの功績は挙げられなかったと言われている。

 その上、彼は内政能力にも優れており、決して独裁者でなく、有能なブレーンに仕事を任せて、国王を補佐している。
 そんな有能なテオバルトが次代の王であることは誰も否定できない。父である国王もテオバルトに意見し難い節もあるぐらいである。だが、そんな彼にはたった一つ困った事があった。それは番に対する執着だ。

 始祖である竜人は、自分が生まれた世界で番が得られずに、異世界であるこの世界に渡って来て番を見つけたと伝承されている。
 が、その子孫は王族である。王族としての義務があり、番を見つけるために始祖のように放浪はできない。

 始祖と違って、人間と交わった王族は、番が自分の感知できるところに居なければわからないのだ。番が同じ国にいるとは限らないーーー下手をすると始祖のように異世界にいるかもしれないーーーそんな不確かな番探しの旅に王族は出るわけにはいかないのだ。

 しかし、番が見つからないからと言って、子孫を残さないわけにはいかない。ましてや王族なので、必須である。番をみつけられない王族は恋愛に二の足を踏みがちなため、幼い頃から婚約者を設けることになる。人間に近くなっている王族は、ほぼそのまま婚約者と婚姻する。
 だが、先祖返りの王族はーーーそれはテオバルトであるがーーーー番に執着している。執着はしているが、始祖のように異世界まで探しには行けない。王族としての義務はきっちり彼の頭に叩き込まれている。そして、残念ながら成人した彼には未だに番は見つかっていない。

 そんな彼の婚約者は、南隣のレーゼル王国の王女エレオノーラである。
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