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二学期
クリスマスパーティー
しおりを挟む「雪…起きろ…起床時間だ…」
「う…ん…むり…」
このまま布団と一つになりたいと布団の中に身体埋める。明日があると言ったのに止めない煌弥が悪い。終業式なんて出なくてもいいだろうと俺の中にいる悪魔が囁く。
「煌弥様。無理はいけませんとあれ程…」
「わかっている…」
桜庭さんありがとう。もっと言ってやってくれ。俺は朝食を抜きにして煌弥の朝食の時間まで休息にあてる事にした。
その後は重い身体を引きずって学校に向かった。
「保健室…行くか?」
煌弥が心配そうに声をかけてくれるがフルフルと首を振る。せっかく学校に来たのに保健室に行っては意味が無い。ただひたすらに先生達の話を聞いて、終業式とホームルームが終わるのを耐えた。
冬休みに入れば後は自由だ。と言っても今日はこの後クリスマスパーティーがあるので昼食をとった後、特に何も準備がない俺はぼんやりと過ごしていた。
部屋に戻って陽の当たるソファの上でぐったりしている俺の腰をさすっている煌弥の姿はとても王子様とは思えない。こうしてクリスマスパーティーの準備をせず、まったりしている煌弥もパーティーにはあまり興味が無さそうだ。
「全く…ダンスだって練習したんだから」
ついつい小言が零れてしまう。本来ならばこんな事言っていい相手では無いのだけれど、煌弥は俺に頭が上がらないのを知っている。
「……そうだな、パーティーの時間まで寝ているといい。時間がきたら起してやるから」
ソファで横になっていた俺をお姫様抱っこで抱えるとベッドへと運んでくれた。
本物の王子様にお姫様抱っこしてもらえるなんてまるでお姫様になった気分だけれど、男の俺からしたら複雑な気持ちだ。
そんな事を考えていたけど、ふかふかのベッドはすぐに俺を深い睡眠へと誘った。
流石に夕方近くまで寝ていると体調は良くなっていた。スーツに着替えると、煌弥は王族の衣装に着替えており、これには思わず目を惹かれた。
そういえば煌弥の正装した姿を見た事がなかったので少しドキッとしたのは内緒だ。二人で会場に向かうと既にそこは沢山の生徒で賑わっていた。
(ここの生徒ってこういうの好きだよなぁ)
生徒達は眩しいくらいキラキラとした衣装に身を包み、食事をとったり会話に花を咲かせて、生演奏の中、ダンスを踊ったりしている光景はまるで舞踏会のようだ。
もしかしたら生徒の中には好きな人がいて、話をするきっかけになるチャンスだったり、お憧れの人とダンスを踊れたりする大事な日である事は間違いないらしい。
俺達が会場の中に入ると、一気に視線は煌弥へと注がれた。
皆一斉一隅のチャンスと言わんばかりに皆話かけたそうに煌弥へとにじり寄る。
それを知ってか知らぬ顔か煌弥は俺の手を握ると一言こう言った。
「一曲お相手お願いできますか?」
「…はい」
えぇー初っ端からか。と思ったが、こんな状況で王子様相手に断れるはずもない。俺達はダンスホールの中心で一曲踊る事になった。
いくら二人で練習したとはいえ、大勢に見られながら踊るなんてこの上なく恥ずかしい。
人前に立つことに慣れている煌弥は様子が変わる事なく雪をリードし、優雅にステップを踏む。俺が内心慌てている間に無事一曲終える事が出来た。
「嫌な事は最初に終わらせる方がいいだろう?」
「そうだね…」
確かにその通りだ。後はこれで美味しい食事を味わって帰ろう。
「雪、煌弥様」
ダンスが終わりほっとしたのもつかの間、何か食べようよと煌弥と話していた所に現れたのは直人と圭だった。
「私たちとも一曲お願い出来ますか?」
礼装に身を包んだ二人は優雅に俺たちを誘う。これが社交界みたいな感じなのかな。俺は皆が躍る姿を見ていたかったけど、手を取られてホールに向かわれたら踊るしかない。
圭には体力つけないとねぇって笑われた。
俺はダンスが落ち着いて、煌弥は怒涛のダンスの申し込みラッシュで人混みへと消えていった。
それを見送りながら、美味しいご飯にありつけた所で祐希や修斗と渚も現れたので楽しくおしゃべりしながら過ごせた。
「雪」
お腹が満たされたし、みんなもそれぞれダンスに行ったり、知り合いと話しをしていて暇だし帰ろっかな…と思っていた時名前を呼ばれた。
「秋人…」
「まだ帰るなんて言わないよな?一曲私ともお願い出来ますか?」
秋人の正装に包まれた姿は見惚れるほどかっこよかった。まわりの生徒もつい目を奪われてしまうほどだ。
「はい」
返事をして手を取ると俺たちはダンスホールへと向かった。久々に一緒に踊る秋人とのダンスは安心して身体を預けられた。
「雪。この後一緒に家に帰るぞ」
「うん」
このまま一緒に過ごせるんだと思うと嬉しい気持ちが一気に込み上げる。さっきまでダンスで疲れていたのに。パーティー自体は自由参加なので、いつ抜けても大丈夫だ。
この学園の理事長でもあるし、秋人は来たばかりだからもう少しいるのかなと思ったら、こんな日くらいは早く抜けてもいいだろうと俺を連れて早々に会場を後にした。
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