60 / 81
二学期
夏休みが終わる前に
しおりを挟む夏休みが終わるまではまだ日にちがあるが、学園へと戻ってきた。寮の横には大きな工事が進んでいて、どうやらここに王子様が住める部屋を作るらしい。
勿論税金ではない、秋人の実費らしい。やっぱり王子には将来その分頑張ってもらわないといけないだろう。
ともかく一旦部屋に荷物を置いて、旅行分の洗濯物をしたいと自分の部屋の扉を開けると鍵がかかっていなかった。
(あれ…鍵…閉め忘れた?物騒すぎるでしょ俺…)
靴を脱いで部屋に入った瞬間俺は突然の衝撃波に襲われる。
「うぐっ…」
「雪ッ…!!」
ドサドサっと旅行バッグが落ちて、俺の身体は相手の身体に抱きしめられた。
「こ、煌弥…?」
「ああ」
ぐりぐりと頭を擦りつけて、なんだか小動物みたいだ。
まだ部屋も出来ていないのでまさかもういるとは思わなかった。
「煌弥…い、痛いよ離して…」
「わ、悪い」
身体が離されて、ふぅと一息つく。
再開したらちょっと気まずいかなぁと思っていたが、相手を見るからに嬉しそうで話を蒸し返すのは止めようと思った。
「どうしたの?まだ住む部屋出来てないよ?」
「今日雪が学園に戻ってくるって聞いて、部屋が出来るまで俺もここに住むことにしたから」
「えぇっ!?」
俺の寮の部屋は二人部屋に一人で住んでいるけれど、そんなに広くもないし、王族の方が住むようなレベルじゃない。
生徒会のメンバーが住んでいる部屋くらいならまだしも、まともなのは秋人が用意してくれた大きなベッドくらいだ。
「煌弥様、雪様、お話の途中ですが、よろしいでしょうか」
「あ…」
部屋の中からもう一人、スーツをきたお父さんくらいに見える年齢の男性が現れた。
「私、煌弥様に使える桜庭と申します。お話したい事があるので、まずはお部屋にお上がりください」
「あ、はい」
俺達は玄関でやり取りをしていた事を思い出して、旅行鞄を拾うと部屋の中に入った。
桜庭と呼ばれる人が、お茶まで出してくれて、狭い部屋にはテーブルや煌弥が座る椅子まで用意されていた。そこに男三人がいるものだからなんだか異様な光景だった。
「雪様、申し訳ないのですが、煌弥様が新しく部屋が出来上がるまでこちらで生活したいとの事で荷物を少し運ばさせて頂きました。身の回りのお世話はこちらで対応致しますので、雪様も私たちの足りない部分がありましたらサポート頂けると嬉しいのですが」
「あ、ああ…そうですね。はい」
授業などは流石の従者さんたちも参加出来ない。そういった所はよろしく頼むと言われていたし、ちょうど同い年だったからクラスも一緒になるらしい。
けれど、一緒に住むのは知らなかったから驚きだ。
その後も桜庭さんと言う方が色々説明してくれて、煌弥は聞いているのかいないのか、曖昧に返事をして優弥にお茶を飲んでいた。
これには確かに皆が手を焼くのが分かる。ひとまず二人が一旦部屋を去るとはぁと一息ついた。
(これから大変になりそうだなぁ)
旅行カバンの中身を整理して、手に洗濯物を持つと玄関に向かった。
「雪?どこにいくのだ?」
最後に桜庭さんと話す為に部屋から出ていった煌弥が部屋にもどってきた。
「ちょっと洗濯物がたまっているから、ランドリー室に行ってくるよ」
「ふーん。俺も行く」
多分ランドリー室が分かっていないのか興味深々だ。
夏休み中の学園はまだ人が少なくて、ランドリー室は人が居なくて助かった。
洗濯機や乾燥機が並んでいる光景を物珍しそうに見る煌弥。
煌弥こそ異世界に迷い込んだ人みたいで見ていて微笑ましかった。
「こうやって洗って、洗い終わったらこっちの機械で乾かすんですよ」
「へぇー」
二人でベンチに座って洗い終わるのを待つ。
「本当に学園に来てよかったんですか?」
「王宮は退屈だ…」
どこか遠くをみながらそう言う煌弥。王宮では大人の人ばかりだったように思う。
騎士の皆さんも、先ほどの桜庭さんも、出会った人は皆お兄さんよりも若い人を見かけなかったから遊び相手っていう人がいないのかもしれない。
濡れた服を乾燥機に入れて、その後乾いた服をみると「おぉ…」と驚いていた姿を見てたらなんだか煌弥が可愛く思えてきた。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる