幸せを噛みしめて

ゆう

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二学期

夏休みが終わる前に

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 夏休みが終わるまではまだ日にちがあるが、学園へと戻ってきた。寮の横には大きな工事が進んでいて、どうやらここに王子様が住める部屋を作るらしい。
 勿論税金ではない、秋人の実費らしい。やっぱり王子には将来その分頑張ってもらわないといけないだろう。

 ともかく一旦部屋に荷物を置いて、旅行分の洗濯物をしたいと自分の部屋の扉を開けると鍵がかかっていなかった。

(あれ…鍵…閉め忘れた?物騒すぎるでしょ俺…)

 靴を脱いで部屋に入った瞬間俺は突然の衝撃波に襲われる。

「うぐっ…」

「雪ッ…!!」

 ドサドサっと旅行バッグが落ちて、俺の身体は相手の身体に抱きしめられた。

「こ、煌弥…?」

「ああ」

 ぐりぐりと頭を擦りつけて、なんだか小動物みたいだ。
 まだ部屋も出来ていないのでまさかもういるとは思わなかった。

「煌弥…い、痛いよ離して…」

「わ、悪い」

 身体が離されて、ふぅと一息つく。
 再開したらちょっと気まずいかなぁと思っていたが、相手を見るからに嬉しそうで話を蒸し返すのは止めようと思った。


「どうしたの?まだ住む部屋出来てないよ?」

「今日雪が学園に戻ってくるって聞いて、部屋が出来るまで俺もここに住むことにしたから」

「えぇっ!?」

 俺の寮の部屋は二人部屋に一人で住んでいるけれど、そんなに広くもないし、王族の方が住むようなレベルじゃない。
 生徒会のメンバーが住んでいる部屋くらいならまだしも、まともなのは秋人が用意してくれた大きなベッドくらいだ。

「煌弥様、雪様、お話の途中ですが、よろしいでしょうか」

「あ…」

 部屋の中からもう一人、スーツをきたお父さんくらいに見える年齢の男性が現れた。

わたくし、煌弥様に使える桜庭さくらばと申します。お話したい事があるので、まずはお部屋にお上がりください」

「あ、はい」

 俺達は玄関でやり取りをしていた事を思い出して、旅行鞄を拾うと部屋の中に入った。
 桜庭と呼ばれる人が、お茶まで出してくれて、狭い部屋にはテーブルや煌弥が座る椅子まで用意されていた。そこに男三人がいるものだからなんだか異様な光景だった。

「雪様、申し訳ないのですが、煌弥様が新しく部屋が出来上がるまでこちらで生活したいとの事で荷物を少し運ばさせて頂きました。身の回りのお世話はこちらで対応致しますので、雪様も私たちの足りない部分がありましたらサポート頂けると嬉しいのですが」

「あ、ああ…そうですね。はい」

 授業などは流石の従者さんたちも参加出来ない。そういった所はよろしく頼むと言われていたし、ちょうど同い年だったからクラスも一緒になるらしい。
 けれど、一緒に住むのは知らなかったから驚きだ。

 その後も桜庭さんと言う方が色々説明してくれて、煌弥は聞いているのかいないのか、曖昧に返事をして優弥にお茶を飲んでいた。

 これには確かに皆が手を焼くのが分かる。ひとまず二人が一旦部屋を去るとはぁと一息ついた。

(これから大変になりそうだなぁ)

 旅行カバンの中身を整理して、手に洗濯物を持つと玄関に向かった。

「雪?どこにいくのだ?」

 最後に桜庭さんと話す為に部屋から出ていった煌弥が部屋にもどってきた。

「ちょっと洗濯物がたまっているから、ランドリー室に行ってくるよ」

「ふーん。俺も行く」

 多分ランドリー室が分かっていないのか興味深々だ。
 夏休み中の学園はまだ人が少なくて、ランドリー室は人が居なくて助かった。
 洗濯機や乾燥機が並んでいる光景を物珍しそうに見る煌弥。 

 煌弥こそ異世界に迷い込んだ人みたいで見ていて微笑ましかった。

「こうやって洗って、洗い終わったらこっちの機械で乾かすんですよ」

「へぇー」

 二人でベンチに座って洗い終わるのを待つ。

「本当に学園に来てよかったんですか?」

「王宮は退屈だ…」

 どこか遠くをみながらそう言う煌弥。王宮では大人の人ばかりだったように思う。
 騎士の皆さんも、先ほどの桜庭さんも、出会った人は皆お兄さんよりも若い人を見かけなかったから遊び相手っていう人がいないのかもしれない。

 濡れた服を乾燥機に入れて、その後乾いた服をみると「おぉ…」と驚いていた姿を見てたらなんだか煌弥が可愛く思えてきた。



 
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