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計画
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伯爵令息のレナードとの結婚が決まった時、私は衝撃で言葉を失いそうになった。
そもそも我が家は平々凡々な男爵家。
伯爵家との繋がりなんてほとんどないし、ましてや財務大臣を父に持つレナードの家との関わりなんて皆無だった。
しかし私が学園を優秀な成績で卒業したことが知られていたらしく、なんと向こうから縁談の申し込みが来たのだ。
「やったぞマリア!」
「おめでとうマリア!」
両親は手を打ってよろこび、私もそんな二人を見て涙を流した。
レナードが容姿端麗で人気のある令息だということは噂の中で知っていた。
そんな彼との縁談、嬉しくないはずがない!
……しかし現実はそう甘くはなかった。
「お前には何も期待していない。せいぜい僕の妻でも演じていろ」
結婚式の翌日。
レナードは突然に本性を現し、私にそう吐き捨てたのだ。
動揺が渦を巻いて、ああ、これが現実なのだなと一気に気持ちが冷めていった。
そこからの日々は辛いものだった。
レナードは私を露骨に無視するようになり、やがて三人も不倫相手を作るようになった。
家にいることも少なくなり、夫としての務めを果たしているようにはとてもじゃないが見えない。
しかし男爵家の私が意見することもできずに、半年以上の時間が経過していた。
暗い毎日が続く中、ある日、ふと心に怒りが湧いてきた。
悪いのはレナードの方なのに、なぜ私が我慢しなくてはいけないのか。
家のためどうこうよりも、もっと自分の気持ちに寄り添った方が、幸せな人生を歩めるのではないかと。
「レナード様と……離婚する!!!」
私は独り、決意を固めた。
……離婚するならレナードから宣言される必要があった。
私から言うこともできるが、最悪の場合、不敬に当たるとして慰謝料でも要求されかねない。
貴族といえど男爵家の私にとっては、それは十分な痛手になる。
考えた末、三人の不倫相手を巻き込むことにした。
彼女たちが私の協力者になり、私の印象を下げれば、レナードも離婚する気になると思ったからである。
それから私は三人の不倫相手を綿密に調べ、遂に接触を果たした。
ドレツは希少なワインを望み、ルーブルは父親の借金返済を望み、ローイエは貴族の世界に足を踏み入れることを望んだ。
協力者となる以上、報酬は払う。
けれど彼女たちは、レナードに私という妻がいるのを知っていながら、関係を持っていた。
そんな人達が許されていいはずがない。
そう思った私は、報酬は払うがそれでも断罪できるように手はずを整えた。
「パーティーに行くぞ。準備をしろ」
あのパーティーに向かう前、レナードは相変わらずの冷たい口調で私に言った。
きっと会場に着けばそれも一時的には温かなものへと変化するのだろう。
だが、そんなことで傷が癒えるほど、私の傷は浅くない。
一年抉られ続けたこの傷は、きっと世界のどの深淵よりも深いのだ。
姿見に私が映る。
依然として貼り付けたような笑みを浮べているが、未だに一度としてバレたことがない。
これならレナードや不倫相手たちを欺くことも十分に可能だろう。
最後に笑うのは彼等じゃない、私なのだ。
「おい! いつまで待たせる気だ! 今日はお父様も途中から出席なさるんだ。遅刻なんてしてみろ、どうなるか分かったものじゃない」
「すみません、もう大丈夫です。行きましょう」
「ふん、愚鈍なやつが」
私にも顔を向けず、淡々と歩いていくレナード。
その背中を追いかけながら私はひっそりと笑みを浮かべた。
そもそも我が家は平々凡々な男爵家。
伯爵家との繋がりなんてほとんどないし、ましてや財務大臣を父に持つレナードの家との関わりなんて皆無だった。
しかし私が学園を優秀な成績で卒業したことが知られていたらしく、なんと向こうから縁談の申し込みが来たのだ。
「やったぞマリア!」
「おめでとうマリア!」
両親は手を打ってよろこび、私もそんな二人を見て涙を流した。
レナードが容姿端麗で人気のある令息だということは噂の中で知っていた。
そんな彼との縁談、嬉しくないはずがない!
……しかし現実はそう甘くはなかった。
「お前には何も期待していない。せいぜい僕の妻でも演じていろ」
結婚式の翌日。
レナードは突然に本性を現し、私にそう吐き捨てたのだ。
動揺が渦を巻いて、ああ、これが現実なのだなと一気に気持ちが冷めていった。
そこからの日々は辛いものだった。
レナードは私を露骨に無視するようになり、やがて三人も不倫相手を作るようになった。
家にいることも少なくなり、夫としての務めを果たしているようにはとてもじゃないが見えない。
しかし男爵家の私が意見することもできずに、半年以上の時間が経過していた。
暗い毎日が続く中、ある日、ふと心に怒りが湧いてきた。
悪いのはレナードの方なのに、なぜ私が我慢しなくてはいけないのか。
家のためどうこうよりも、もっと自分の気持ちに寄り添った方が、幸せな人生を歩めるのではないかと。
「レナード様と……離婚する!!!」
私は独り、決意を固めた。
……離婚するならレナードから宣言される必要があった。
私から言うこともできるが、最悪の場合、不敬に当たるとして慰謝料でも要求されかねない。
貴族といえど男爵家の私にとっては、それは十分な痛手になる。
考えた末、三人の不倫相手を巻き込むことにした。
彼女たちが私の協力者になり、私の印象を下げれば、レナードも離婚する気になると思ったからである。
それから私は三人の不倫相手を綿密に調べ、遂に接触を果たした。
ドレツは希少なワインを望み、ルーブルは父親の借金返済を望み、ローイエは貴族の世界に足を踏み入れることを望んだ。
協力者となる以上、報酬は払う。
けれど彼女たちは、レナードに私という妻がいるのを知っていながら、関係を持っていた。
そんな人達が許されていいはずがない。
そう思った私は、報酬は払うがそれでも断罪できるように手はずを整えた。
「パーティーに行くぞ。準備をしろ」
あのパーティーに向かう前、レナードは相変わらずの冷たい口調で私に言った。
きっと会場に着けばそれも一時的には温かなものへと変化するのだろう。
だが、そんなことで傷が癒えるほど、私の傷は浅くない。
一年抉られ続けたこの傷は、きっと世界のどの深淵よりも深いのだ。
姿見に私が映る。
依然として貼り付けたような笑みを浮べているが、未だに一度としてバレたことがない。
これならレナードや不倫相手たちを欺くことも十分に可能だろう。
最後に笑うのは彼等じゃない、私なのだ。
「おい! いつまで待たせる気だ! 今日はお父様も途中から出席なさるんだ。遅刻なんてしてみろ、どうなるか分かったものじゃない」
「すみません、もう大丈夫です。行きましょう」
「ふん、愚鈍なやつが」
私にも顔を向けず、淡々と歩いていくレナード。
その背中を追いかけながら私はひっそりと笑みを浮かべた。
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題名 少し改変しました
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