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平民ローイエ
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帰宅すると門のところが騒がしかった。
御者に近くに停めるように言って、私は馬車から降りる。
門の前でどこかで見たような金髪の女子が声を荒げていた。
「だから私はマリアさんの友達って言ってるっす! 早く門を開けてください!」
まるで子供のように元気な声に、ああローイエかと納得する。
「ローイエ、どうしたの急に?」
私が近づいていくと、彼女が縋るような目で私を見上げた。
……場所を応接間に移し、私たちはソファに向かい合って座っていた。
ローイエはお菓子や紅茶には目もくれずに口を開く。
「マリアさん、居ても立っても居られなくて来ちゃいました! 約束は守りましたし、私の願いを叶えてくれますよね!?」
わくわくとした輝く目で見つめられ、自分も子供の時はこんな風だったのかなと少しだけ懐かしい気持ちになる。
「ええ、もちろんよ」
「やったぁ!」
手を上げて大袈裟に喜んだローイエは、すぐに自分の醜態に気づき頬を赤らめた。
……ドレツやルーブル同様、彼女にも私は頼みごとをしていた。
それは、私を貶めるような証言をあのパーティーですること。
ルーブルの火傷跡に加えて彼女の発言があれば、作戦通りに私は悪女になると思ったからだった。
もちろん二人のように彼女が望んだ報酬は用意してある。
こんなに早く家に来るとは思っていなかったが。
「じゃ、じゃあ本当に貴族の仲間入りができるんすよね? この煌びやかな世界を歩くことができるのですよね?」
期待に目を輝かせるローイエの頭の中には、きっと瞳と同じくらい眩い未来が映っていることだろう。
私はそれが分かっていながらも、笑顔を告げる。
「ええ、使用人としてね」
「……え?」
ローイエの顔がピタッと固まった。
「え、ええ……い、いやちょっと待ってください……使用人? はい? どういうことです?」
私は笑顔を崩すことなくそのまま言葉を続ける。
「だから使用人よ、あなたはこれからこの家の使用人として生きるの」
「で、でも貴族の仲間入りができるって……」
「ええ、だから使用人として貴族の世界で暮らせるでしょう? あなたの願い通り、物理的にも貴族の世界を歩くことができるじゃない。それの何が問題なの?」
「あ、いや……私は……」
ローイエは眉間にしわを寄せると、怒ったような口調で続きを言う。
「てっきり養子にしてくれるのかと……」
「養子? そんな権限私にあるわけがないでしょう? 妹でも無理よ」
「そんな……」
がっかりしたように俯くローイエ。
少し可哀そうな気もするが、この女もあの二人同様に、レナードと不倫をしたのだ。
そう簡単に許せるわけがない。
「別にいいじゃない。他の二人よりはマシなのだから」
「えっ……二人って……?」
「ふふっ、こっちの話よ。気にしないで。で、やるの? やらないの? どっち?」
圧をかけるように身を乗り出すと、ローイエは自信なさげに「やります」と頷いた。
「ならよかった。ちょうど使用人の数が足りなくて困っていたの。たくさん働いてね?」
「は、はい……」
……自室に戻ると、私は大きな息をはいた。
窓から見える景色は既に夜になっていて、空には満点の星空が広がっていた。
「やっと終わった……」
レナードの不倫相手であった三人の女性を断罪し、肩の荷が下りた気分だ。
彼自身も、あの厳格な父親によって、こっぴどく断罪されることだろう。
「さて、これからどうしようかな」
ベッドに腰をかけて、幾重にも広がる未来に妄想を飛ばす。
もう私は自由なのだから。
御者に近くに停めるように言って、私は馬車から降りる。
門の前でどこかで見たような金髪の女子が声を荒げていた。
「だから私はマリアさんの友達って言ってるっす! 早く門を開けてください!」
まるで子供のように元気な声に、ああローイエかと納得する。
「ローイエ、どうしたの急に?」
私が近づいていくと、彼女が縋るような目で私を見上げた。
……場所を応接間に移し、私たちはソファに向かい合って座っていた。
ローイエはお菓子や紅茶には目もくれずに口を開く。
「マリアさん、居ても立っても居られなくて来ちゃいました! 約束は守りましたし、私の願いを叶えてくれますよね!?」
わくわくとした輝く目で見つめられ、自分も子供の時はこんな風だったのかなと少しだけ懐かしい気持ちになる。
「ええ、もちろんよ」
「やったぁ!」
手を上げて大袈裟に喜んだローイエは、すぐに自分の醜態に気づき頬を赤らめた。
……ドレツやルーブル同様、彼女にも私は頼みごとをしていた。
それは、私を貶めるような証言をあのパーティーですること。
ルーブルの火傷跡に加えて彼女の発言があれば、作戦通りに私は悪女になると思ったからだった。
もちろん二人のように彼女が望んだ報酬は用意してある。
こんなに早く家に来るとは思っていなかったが。
「じゃ、じゃあ本当に貴族の仲間入りができるんすよね? この煌びやかな世界を歩くことができるのですよね?」
期待に目を輝かせるローイエの頭の中には、きっと瞳と同じくらい眩い未来が映っていることだろう。
私はそれが分かっていながらも、笑顔を告げる。
「ええ、使用人としてね」
「……え?」
ローイエの顔がピタッと固まった。
「え、ええ……い、いやちょっと待ってください……使用人? はい? どういうことです?」
私は笑顔を崩すことなくそのまま言葉を続ける。
「だから使用人よ、あなたはこれからこの家の使用人として生きるの」
「で、でも貴族の仲間入りができるって……」
「ええ、だから使用人として貴族の世界で暮らせるでしょう? あなたの願い通り、物理的にも貴族の世界を歩くことができるじゃない。それの何が問題なの?」
「あ、いや……私は……」
ローイエは眉間にしわを寄せると、怒ったような口調で続きを言う。
「てっきり養子にしてくれるのかと……」
「養子? そんな権限私にあるわけがないでしょう? 妹でも無理よ」
「そんな……」
がっかりしたように俯くローイエ。
少し可哀そうな気もするが、この女もあの二人同様に、レナードと不倫をしたのだ。
そう簡単に許せるわけがない。
「別にいいじゃない。他の二人よりはマシなのだから」
「えっ……二人って……?」
「ふふっ、こっちの話よ。気にしないで。で、やるの? やらないの? どっち?」
圧をかけるように身を乗り出すと、ローイエは自信なさげに「やります」と頷いた。
「ならよかった。ちょうど使用人の数が足りなくて困っていたの。たくさん働いてね?」
「は、はい……」
……自室に戻ると、私は大きな息をはいた。
窓から見える景色は既に夜になっていて、空には満点の星空が広がっていた。
「やっと終わった……」
レナードの不倫相手であった三人の女性を断罪し、肩の荷が下りた気分だ。
彼自身も、あの厳格な父親によって、こっぴどく断罪されることだろう。
「さて、これからどうしようかな」
ベッドに腰をかけて、幾重にも広がる未来に妄想を飛ばす。
もう私は自由なのだから。
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