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公爵令嬢ドレツ
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自宅に帰って程なくすると、部屋の扉がノックされた。
扉を開けると、メイドが用件を口にする。
「マリア様。ドレツ公爵令嬢様がいらっしゃいました」
どこか緊張気味に言葉を紡ぐ彼女。
それもそのはず、今までこの家に公爵家の身分の人が来た試しは一度もない。
しかも相手があの悪評名高いドレツ公爵令嬢なのだから仕方もない。
「分かったわ。応接間にご案内して」
支度を手早く済ませて応接間に行くと、ソファに座ったドレツが手を振った。
「待っていたわよ。お疲れ様」
私は彼女の向かいに腰を下ろすと、軽く頭を下げる。
「先ほどのパーティーでは本当にありがとうございました。おかげで上手くレナード様と離婚をすることができました」
「ふふっ、別にいいのよ。私とあなたの仲じゃない」
ドレツは愛想よくそう言うと、テーブルのお菓子を一口食べた。
しかしあまり口に合わなかったのか、すぐに渋い顔をする。
「それで、例のものはどこかしら……?」
隠すように笑ったドレツは狡猾な目で私を見つめた。
私は頷くと、近くのメイドに声をかける。
メイドが急いで応接間を出て行き、少しして一本のワインを持って戻ってくる。
「まあ!!!」
ドレツはソファから素早く立ち上がると、メイドの手からワインを奪い取った。
「これがあの幻のワインなのね……確かに……本物のようね……ふふっ」
「お気に召したようでなによりです」
ドレツは無類の希少コレクターだ。
希少なものを世界中を飛び回り集めては、それを展示して人に自慢している。
私が用意したこのワインは世界に数本しかないもので、これと引き換えに彼女に協力を頼んだのだ。
「本当に貰っていいのよね?」
「はい。もちろんでございます。ドレツ様のお力がなければパーティーも開けず、今回の離婚は実現いたしませんでした。全て計画通りにいったのはドレツ様のおかげです」
「ふふっ、そうね。そうよねぇ」
褒められて嬉しがる子供のように、ドレツが顔を綻ばせた。
ずっと欲しかったワインが手に入って、さぞかし夢心地だろう。
「じゃあ私はこれで帰らせてもらうわね」
ドレツはワインを大事そうに抱えると、そのまま応接間の扉に近づく。
「お待ちくださいドレツ様」
「ん?」
私の声にドレツが振り返った。
ついに笑いを堪えきれなくなった私は、笑顔で告げる。
「ご協力には感謝いたしますが、社会の悪を許すことはできません」
「は?」
その時だった。
応接間の扉が開いて、数人の兵士が入ってきた。
ドレツはあっと言う間に縄で縛られ、身動きが取れなくされる。
「は、な、何よこれ!!!」
動揺を隠せないドレツに、一際大きな男が言った。
「公爵令嬢ドレツ様。あなたに窃盗と殺人の容疑がかかっております。身柄を拘束させて頂きます」
「え……」
ドレツの顔が濁った水のように、醜い色に染まる。
彼女は私にチラッと顔を移し、歯ぎしりをした。
「わ、私を騙したわね! 初めからこうするつもりだったのね!?」
「はい」
私は即答し、頷いた。
「今回の件で協力をして頂いたことには感謝しておりますが、レナード様と不倫をした件を許したわけではないですし。あれ、バレていないと思っていたのですか? ふふっ……ごめんなさい、全部バレていますよ。不倫も何もかも」
ドレツはレナードと不倫をしていた。
そして希少なコレクションを手に入れるために、所有者から盗んだり、最悪の場合には殺人まで犯していた。
こんな罪に穢れた女を許せるはずもない。
「そんな……いや、いやよぉ!!!」
泣き叫ぶドレツは、兵士に連れられて応接間を後にした。
扉を開けると、メイドが用件を口にする。
「マリア様。ドレツ公爵令嬢様がいらっしゃいました」
どこか緊張気味に言葉を紡ぐ彼女。
それもそのはず、今までこの家に公爵家の身分の人が来た試しは一度もない。
しかも相手があの悪評名高いドレツ公爵令嬢なのだから仕方もない。
「分かったわ。応接間にご案内して」
支度を手早く済ませて応接間に行くと、ソファに座ったドレツが手を振った。
「待っていたわよ。お疲れ様」
私は彼女の向かいに腰を下ろすと、軽く頭を下げる。
「先ほどのパーティーでは本当にありがとうございました。おかげで上手くレナード様と離婚をすることができました」
「ふふっ、別にいいのよ。私とあなたの仲じゃない」
ドレツは愛想よくそう言うと、テーブルのお菓子を一口食べた。
しかしあまり口に合わなかったのか、すぐに渋い顔をする。
「それで、例のものはどこかしら……?」
隠すように笑ったドレツは狡猾な目で私を見つめた。
私は頷くと、近くのメイドに声をかける。
メイドが急いで応接間を出て行き、少しして一本のワインを持って戻ってくる。
「まあ!!!」
ドレツはソファから素早く立ち上がると、メイドの手からワインを奪い取った。
「これがあの幻のワインなのね……確かに……本物のようね……ふふっ」
「お気に召したようでなによりです」
ドレツは無類の希少コレクターだ。
希少なものを世界中を飛び回り集めては、それを展示して人に自慢している。
私が用意したこのワインは世界に数本しかないもので、これと引き換えに彼女に協力を頼んだのだ。
「本当に貰っていいのよね?」
「はい。もちろんでございます。ドレツ様のお力がなければパーティーも開けず、今回の離婚は実現いたしませんでした。全て計画通りにいったのはドレツ様のおかげです」
「ふふっ、そうね。そうよねぇ」
褒められて嬉しがる子供のように、ドレツが顔を綻ばせた。
ずっと欲しかったワインが手に入って、さぞかし夢心地だろう。
「じゃあ私はこれで帰らせてもらうわね」
ドレツはワインを大事そうに抱えると、そのまま応接間の扉に近づく。
「お待ちくださいドレツ様」
「ん?」
私の声にドレツが振り返った。
ついに笑いを堪えきれなくなった私は、笑顔で告げる。
「ご協力には感謝いたしますが、社会の悪を許すことはできません」
「は?」
その時だった。
応接間の扉が開いて、数人の兵士が入ってきた。
ドレツはあっと言う間に縄で縛られ、身動きが取れなくされる。
「は、な、何よこれ!!!」
動揺を隠せないドレツに、一際大きな男が言った。
「公爵令嬢ドレツ様。あなたに窃盗と殺人の容疑がかかっております。身柄を拘束させて頂きます」
「え……」
ドレツの顔が濁った水のように、醜い色に染まる。
彼女は私にチラッと顔を移し、歯ぎしりをした。
「わ、私を騙したわね! 初めからこうするつもりだったのね!?」
「はい」
私は即答し、頷いた。
「今回の件で協力をして頂いたことには感謝しておりますが、レナード様と不倫をした件を許したわけではないですし。あれ、バレていないと思っていたのですか? ふふっ……ごめんなさい、全部バレていますよ。不倫も何もかも」
ドレツはレナードと不倫をしていた。
そして希少なコレクションを手に入れるために、所有者から盗んだり、最悪の場合には殺人まで犯していた。
こんな罪に穢れた女を許せるはずもない。
「そんな……いや、いやよぉ!!!」
泣き叫ぶドレツは、兵士に連れられて応接間を後にした。
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