【完結】夫には三人の不倫相手がいたようです。

空野はる

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一旦の幕切れ

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「これは何事だ!!!」

猛々しい叫び声が聞こえた。
喧騒がピタリと止んで、声のした扉の方へと視線が集中する。
そこにはレナードの父が立っていた。

「お、お父様!?」

驚いたようにレナードが目を丸くする。
父はずんずんと息子に近づいていき、ぎろっと睨んだ。

「レナード。パーティー会場で何を騒いでいる? これはお前が先導したのか? 何があった?」

質問の矢に、レナードは狼狽えながら説明を始めた。
説明が終わると、父は眉間にしわを寄せる。

「……では、ルーブル嬢。君に火傷を負わせたのがマリア嬢だという証拠を見せたまえ」

「え?」

ルーブルの顔が髪のようにさっと青くなる。

「なんだ、証拠もないのに断罪しようとしていたのか? それにもう治りかけているじゃないか。どうして今まで何も言わなかった?」

「あ、えっとそれは……」

遂には顔を俯かせ黙ってしまったルーブル。
レナードの父は次いで、ローイエを睨む。

「君も同様に証拠はあるのか?」

「あるっす! 私がこの目で見ましたから!」

「そんなものは何の証拠にもならん」

バッサリと切り捨てると、父は大きなため息をはいた。
そして今度はドレツへと視線を向ける。

「ドレツ様。息子がご迷惑をおかけして申し訳ありません。しかし、あなたなら息子の言っていることが正当性を欠くことくらいすぐに分かるでしょう?」

「ふんっ!」

ドレツはバツが悪いような顔をして、そっぽを向く。

レナードの父はこの国の財務大臣だった。
飛びぬけた頭脳で、伯爵家の当主という身分にもかかわらず、国王の右腕とまで言われている。
彼無しにはこの国が繁栄することはないだろう。

そんな凄い人だから、周囲からも、もちろん一目置かれている。
公爵家の人間でも敬語を使うほどで、ドレツよりも人望はありそうだ。

「お父様、お待ちください。彼女たちは悪くないのです」

レナードが消え入るような声で言った。
しかし顔は真っ青で、今にも倒れそう。

「じゃあ誰が悪いというのだ」

「あいつです……マリアです。お父様はマリアの正体を知らないのです」

「いや、私はちゃんと知っている。彼女は優しい人だ。わざわざ私の誕生日にもプレゼントをくれるような。義理の父親だからかもしれんが、そんな当たり前のことを当たり前にできるマリア嬢は尊敬に値する」

レナードの父の言葉が、素直に嬉しかった。
しかしレナードは不服らしく、声を荒げた。

「それも全部作戦なのです! あいつは悪魔です! お父様は騙されているのです!」

「くだらん妄想を叫ぶな!!!」

父が息子を上回る怒号を上げて、レナードの頬を思いっきりビンタした。
鋭い音が会場に響き渡る。

「お、お父様……いっ……」

どうやら唇を切ったらしい。
赤い血が唇から顎にかけて線を作っている。
しかし息子のそんな様子を見ても、父は怒りを鎮めない。

「レナード!!! マリア嬢は今までお前を献身的に支えてきただろう! なぜそんな彼女を信じてやらん! お前には夫としての自覚がないのか!?」

「い、いや違うのです……僕は悪いわけじゃ……」

何とか言い訳をするレナードだが、やはり向けられた怒りは収まらない。

「加えて証拠もないのに断罪しようとするとは言語道断だ! 夫である前にお前には人としての常識が足りておらんわ!」

「し、しかし……」

「言い訳するなぁ!!!」

再びビンタが浴びせられ、「うごっ」とレナードが呻き声を上げた。
頬がじんじんと腫れていて、涙目にすらなってしまっている。
レナードの父は呆れたように息をはき、私に顔を向けた。

「マリア嬢。迷惑をかけてすまなかった。愚息とは離婚して欲しい、もちろん正当な額の慰謝料も払うし、今の屋敷はそのまま使ってくれて構わない。だからどうか許してくれ」

「……分かりました」

笑みを必死に隠しながら、私は厳かな声と共に頷いた。
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