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証言者たち
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私がレナード様のご友人たちをいじめた?
そんな事実はございませんが?
そう言いたいのを何とか我慢して、私は苦笑を浮かべた。
「えっと……どういうことでしょうか?」
そんな私に、レナードは冷徹な声で言った。
「しらばっくれるのもいい加減にしろ。お前がいじめたという証拠はこちらにたくさんあるんだ。ねえ、ドレツ様」
レナードの言葉に公爵令嬢ドレツが頷く。
燃えるような赤い髪に、瞳はまるで獰猛な獣のように血走っている。
彼女が私を嘲笑うように口を開く。
「マリアさん。あなたが正直に罪を悔い改めるというのなら罪を軽くしてあげてもよくてよ? 私からレナードに言ってあげるわ」
「いや、私は何もしておりませんし! それにドレツ様のお手を煩わせるわけにもいきません。これは私とレナード様の夫婦間の問題ですので」
「黙らっしゃい! 生意気な娘ね!」
「ひっ……!」
ドレツの迫力に気圧されて、思わず短い悲鳴が飛び出した。
周囲の貴族から気の毒そうな声まで聞こえてきて、ますます私の印象は悪くなるばかり。
「レナード。こんな女、さっさと断罪してしまいなさい!」
ドレツがレナードの肩に手を置いた。
豚のような太い手だなと思ったが、もちろんそんなことは口にしない。
「ええ、もちろんです。僕達の愛にかけて」
意味深なセリスを口走ったレナードは、私をキッと睨みつける。
「マリア! お前の悪事を今ここで明るみにしてやる!」
まるで勇者のように叫んだレナードは、近くの令嬢に叫んだ。
「ルーブル! 来てくれ!」
「はい、レナード様」
レナードの要請に応じたのは、青い髪の大人しそうな令嬢だった。
顔を見た瞬間、彼女の正体が分かる。
私と同じ男爵家の令嬢、ルーブルだった。
パーティーで顔を合わせたことも何度もあり、もちろん話をしたこともある。
しかしいつもどこか壁を感じていて、友人というほどの関係性ではなかった。
ルーブルはレナードの隣まで歩を進めると、私をじっと見つめた。
「ルーブル、あれを見せてやれ」
「はい、レナード様」
彼女は服の袖をおもむろに捲り始めた。
途端に、彼女の素肌を見た人から「うわっ」と悲鳴にも似た驚きの声が上がる。
彼女の腕は大きく火傷をしていた。
かさぶたのようになっているが、見ていてあまり気持ちの良いものではない。
「マリア。これが何か分かるな?」
「火傷の跡……でしょうか」
「ふん、その通りだよ。お前がルーブルに火傷を負わせたんだ。これはいじめの範疇を越えている。殺人未遂だよ!」
レナードの声に、周囲の貴族達から怒号が飛んできた。
一気に悪者になった私に畳みかけるように、レナードは次の被害者の名を呼ぶ。
「ローイエ。お前も来い!」
「はいっす!」
群衆の中から子供のような女の子が飛び出してきた。
活発な雰囲気で、金色の髪を短く切りそろえた彼女は、ルーブルの隣に立った。
レナードは説明するように口を開いた。
「彼女はローイエ。平民だが、ドレツ様に頼み込んで特別にこのパーティーに呼んだ。お前の悪事の証人だ」
「悪事の証人?」
首を傾げた私に、レナードは言葉を続ける。
「お前は普段からローイエを含めた平民相手に暴力を振るっていたそうだな。加えて水をかけたり、金を巻き上げたりしていたと。ルーブル同様、彼女は僕の友人だ。こんな愚行……許されることじゃないぞ」
厳かな口調で言ったレナードは息を大きく吸い込んだ。
そして会場の全員に聞こえるくらいの大きな声で叫ぶ。
「マリア! 貴様のような悪魔とは即刻離婚させてもらう! そしてお前は国外追放に処す!!!」
会場の皆もレナードに賛成らしく、勇猛果敢な声を上げた。
その騒めきの中で、会場の扉がそっと開いた。
そんな事実はございませんが?
そう言いたいのを何とか我慢して、私は苦笑を浮かべた。
「えっと……どういうことでしょうか?」
そんな私に、レナードは冷徹な声で言った。
「しらばっくれるのもいい加減にしろ。お前がいじめたという証拠はこちらにたくさんあるんだ。ねえ、ドレツ様」
レナードの言葉に公爵令嬢ドレツが頷く。
燃えるような赤い髪に、瞳はまるで獰猛な獣のように血走っている。
彼女が私を嘲笑うように口を開く。
「マリアさん。あなたが正直に罪を悔い改めるというのなら罪を軽くしてあげてもよくてよ? 私からレナードに言ってあげるわ」
「いや、私は何もしておりませんし! それにドレツ様のお手を煩わせるわけにもいきません。これは私とレナード様の夫婦間の問題ですので」
「黙らっしゃい! 生意気な娘ね!」
「ひっ……!」
ドレツの迫力に気圧されて、思わず短い悲鳴が飛び出した。
周囲の貴族から気の毒そうな声まで聞こえてきて、ますます私の印象は悪くなるばかり。
「レナード。こんな女、さっさと断罪してしまいなさい!」
ドレツがレナードの肩に手を置いた。
豚のような太い手だなと思ったが、もちろんそんなことは口にしない。
「ええ、もちろんです。僕達の愛にかけて」
意味深なセリスを口走ったレナードは、私をキッと睨みつける。
「マリア! お前の悪事を今ここで明るみにしてやる!」
まるで勇者のように叫んだレナードは、近くの令嬢に叫んだ。
「ルーブル! 来てくれ!」
「はい、レナード様」
レナードの要請に応じたのは、青い髪の大人しそうな令嬢だった。
顔を見た瞬間、彼女の正体が分かる。
私と同じ男爵家の令嬢、ルーブルだった。
パーティーで顔を合わせたことも何度もあり、もちろん話をしたこともある。
しかしいつもどこか壁を感じていて、友人というほどの関係性ではなかった。
ルーブルはレナードの隣まで歩を進めると、私をじっと見つめた。
「ルーブル、あれを見せてやれ」
「はい、レナード様」
彼女は服の袖をおもむろに捲り始めた。
途端に、彼女の素肌を見た人から「うわっ」と悲鳴にも似た驚きの声が上がる。
彼女の腕は大きく火傷をしていた。
かさぶたのようになっているが、見ていてあまり気持ちの良いものではない。
「マリア。これが何か分かるな?」
「火傷の跡……でしょうか」
「ふん、その通りだよ。お前がルーブルに火傷を負わせたんだ。これはいじめの範疇を越えている。殺人未遂だよ!」
レナードの声に、周囲の貴族達から怒号が飛んできた。
一気に悪者になった私に畳みかけるように、レナードは次の被害者の名を呼ぶ。
「ローイエ。お前も来い!」
「はいっす!」
群衆の中から子供のような女の子が飛び出してきた。
活発な雰囲気で、金色の髪を短く切りそろえた彼女は、ルーブルの隣に立った。
レナードは説明するように口を開いた。
「彼女はローイエ。平民だが、ドレツ様に頼み込んで特別にこのパーティーに呼んだ。お前の悪事の証人だ」
「悪事の証人?」
首を傾げた私に、レナードは言葉を続ける。
「お前は普段からローイエを含めた平民相手に暴力を振るっていたそうだな。加えて水をかけたり、金を巻き上げたりしていたと。ルーブル同様、彼女は僕の友人だ。こんな愚行……許されることじゃないぞ」
厳かな口調で言ったレナードは息を大きく吸い込んだ。
そして会場の全員に聞こえるくらいの大きな声で叫ぶ。
「マリア! 貴様のような悪魔とは即刻離婚させてもらう! そしてお前は国外追放に処す!!!」
会場の皆もレナードに賛成らしく、勇猛果敢な声を上げた。
その騒めきの中で、会場の扉がそっと開いた。
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