『少女、始めました。』

葵依幸

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【4】ひと休みしましょうじょ?

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【4】ひと休みしましょうじょ?

 隅々まで清掃の行き届いた部屋には、真っ白なシーツが掛けられたベットが4つ並んでいた。窓から吹き込む風は心地よく、そこから見える木々は徐々に葉の色を変え、秋の訪れを思わせた。

「……いい景色だねぇ」

 ベットの上で上半身だけ起こしていた荒太が告げる。

「早く、映画の続きを撮らないとシーズンが終わっちゃいそうだ」

 透明な表情を浮かべ、微笑む体には包帯を巻かれ腕に点滴を刺されているものの、それ以外は以前のままだった。1年もの間寝たきりだった為か、体はやつれ、元々健康的でなかったにしろなんだかか細いイメージを受けた。

「……冬になると辛いからな」

 自然に俺は会話出来ているだろうか。
 ちゃんとこいつの目を見れているだろうか?

 隣の椅子でバカが身じろぐのを感じた。
 今日はどうやら空気を読んで大人しくしてくれているようだが――……、逆に暴れてくれた方が助かったかもしれない。

「あはは、晋也は寒がりだからねぇ」

 ずっと、荒太に会うのが怖くて、現実を突きつけられる事が恐ろしくて病室には足を運んでなかった。両親を早くに亡くし、遠い親戚に育てられたコイツには身内と言える身内はおらず、今日まで誰も見舞いに来なかったそうだ。それも眠り続けていたのではどうでも良い話かもしれないが――。

「ああ、そうだそうだ。ロケハンする前に一つ確認しておきたい事が有ったんだ」

 嬉しそうに語る荒太は微笑み、首を傾げる。

「いやー、直接聞いたら済む話だけど、なんだか殴られそうでさ」

 照れ隠しに笑う姿はやはり以前と何も変わらない。
 ただ――。


「笠井先輩って高所恐怖症だって聞いたんだけど、ホントなの?」


 ――俺の親友、朽木荒太はおよそ2年分の記憶を失っていた。
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